ホーム / Business / 教育 / ~in their own way 彼らの選択~「挑戦――大学からJリーグへ」早稲田ユナイテッド 代表 岩崎勇一郎(1)
~in their own way 彼らの選択~「挑戦――大学からJリーグへ」早稲田ユナイテッド 代表 岩崎勇一郎(1)

~in their own way 彼らの選択~「挑戦――大学からJリーグへ」早稲田ユナイテッド 代表 岩崎勇一郎(1)

「大学からJリーグへ」という言葉を聞いた時、一瞬耳を疑う。大学とプロスポーツがすぐには結びつかないからだ。しかし早稲田ユナイテッドを率いる岩崎勇一郎は「大学発信だからできる」自立可能なビジネスモデルがあるという。
 親会社の経営悪化によってクラブが消滅。スポンサーが思うように集まらず経営危機に陥る——プロスポーツビジネスは華やかさとは裏腹にその経営は生易しくない。サッカーを例にすればJクラブですら多くが経営環境の改善に苦しむ。単純に金銭のみで見るなら、およそプロサッカークラブは“お得なビジネス”とは言い難いのが現状だ。そんな中「大学からJリーグへ」を合言葉に挑戦を続けるクラブがある。
 早稲田ユナイテッド代表の岩崎勇一郎は小学4年生からサッカーを始め、中学、高校、大学とサッカーを続けてきた。「プロになりたいという思いはあった」ものの、早大理工学部卒業後はその夢を諦め博士課程に進学。遺伝子工学などバイオ関連の研究に没頭する日々を送っていた。「研究者として生きて行くと決めたつもりだった」という岩崎だが、研究の合間の空き時間にビジネス書を読み、研究室の仲間と遊びでボールを蹴っているうち、自身の中に「サッカーへの情熱」がまだ強く残っていることを再確認する。そしてその思いは次第に顕在化し、クラブ経営という新たな夢へと形を変えていく。
 岩崎のアイデアは「大学が持つブランド力や教育などのリソースとサッカーを組み合わせることで、自立したクラブ経営が成り立つのでは」というもの。トップチームのトレーニングメニューから幼児体育に適した内容を抽出して独自のメソッドをつくる。指導に英語を用いてグローバルなコミュニケーション能力を養成する。さらにユース年代(中高生)には進学指導を付加したメニューを用意する。このように「アカデミー(下部組織)を単なる選手養成機関に終わらせず、教育ビジネスと融合することでクラブ経営の柱を構築できる」と考えたのだ。
 発想を具現化できた背景には2003年、早稲田大学が地域・社会貢献のひとつとして設備や人材などのリソースを開放し、新時代のスポーツ振興を目指したNPO法人「ワセダクラブ」を設立したことがあった。岩崎はサッカー部OB会などを通じ、ワセダクラブと連携しながら構想を具体化させる。2007年にサッカー部OBを中心にしたクラブチームを設立し、翌2008年にはクラブ経営母体となる株式会社早稲田ユナイテッドを起業。同時に「経営を一から学ぶため」早稲田大学のMBAへと進学する。
 監督兼選手、クラブ経営者、大学院生。研究者から一転、岩崎はいきなり複数のワラジを履くことに。発足当時は選手が集まらず岩崎がゴールを守ったり「9人で昇格の懸かった公式戦を戦ったこともあった」という。
 トライ&エラーを繰り返しながら整備してきたアカデミーには、現在選抜チーム(U-12)、幼児クラス、女子チームのほか、GKやストライカーに特化したコースなど、Jクラブにも例のないユニークなクラスを揃える。また「海外移籍を目指す若者を支援する」ための海外挑戦プログラムもある。いずれもトップチームのコーチングスタッフ、選手、大学のスポーツビジネス研究室、地域スポーツクラブなど人、組織、地域が連携した新しい形のスポーツクラブ運営である。

アカデミーにはU-12の選抜クラスを筆頭に、少年少女サッカースクール、フィジカルクラス、幼児体育教室、女子チームなど、子どもたちの目標や段階に応じた育成環境を整備している。いずれも文武両道、世界基準、大学連携を基本理念に、個人技能だけでなく、協調性やコミュニケーション能力などの育成にも力を注ぐ。( 写真提供: 早稲田ユナイテッド)

アカデミーにはU-12の選抜クラスを筆頭に、少年少女サッカースクール、フィジカルクラス、幼児体育教室、女子チームなど、子どもたちの目標や段階に応じた育成環境を整備している。いずれも文武両道、世界基準、大学連携を基本理念に、個人技能だけでなく、協調性やコミュニケーション能力などの育成にも力を注ぐ。(写真提供:早稲田ユナイテッド)

  岩崎はこれらアカデミーのビジネスが成功することは「経済的な利益や経営基盤を強固にするだけでなく、将来的には早稲田DNAが染み込んだトップチーム選手・スタッフの輩出に大きく貢献する」とも見る。そして「僕らが目指すのは常にゲームの主導権を握るパスサッカー。その理想を追求するには下部組織を含め一貫したビジョンを共有することが重要」だともいう。
 東京都社会人の4部からスタートしたトップチームは今では1部上位を争う。もちろんチーム力も経営規模もJにはまだ遠い。だが理想とする「自立したクラブ」へと着実に歩を進めているのは確かだ。(文中敬称略、後編に続く)

<岩崎勇一郎>

東京都出身。小学校からサッカーを始め、国学院久我山高校、早稲田大学ア式蹴球部で活躍。早稲田大学大学院理工学研究科(博士課程)修了の後、同大学院MBAプログラムを修了。2007年クラブチームを設立し、翌2008年には運営会社である株式会社早稲田ユナイテッドを設立する。


文・写真|佐藤久

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