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学校経営のためのイノベーション~杉並区立和田中学校校長 代田昭久氏~

代田 昭久(しろたあきひさ)
1965年長野県生まれ。慶応義塾大学経済学部卒業後、株式会社リクルート(現:株式会社リクルートホールディングス)入社。大学生向け教育コンテンツを立ち上げ「リクルートビジネススクール」校長に就任。2002年同社退社後、2003年に株式会社トップアスリート設立、代表取締役就任。翌年有限会社鎌倉かなえ設立、取締役社長就任。村上龍氏の『13歳のハローワーク』サイトを運営。2007年より和田中学校運営協議会の外部委員。2008年4月和田中学校長に就任

負担感の強い職場環境

赴任して最初に感じたことは「学校とは大変な職場」だったという。ビジネスパーソンとして365日働くことも厭わなかった代田氏にとって、勤務が長時間にわたることではなく、「本来の授業以外に費やす時間が長く、疲労感や負担感が強い職場」という印象だった。保護者対応や部活動など授業以外に割く時間が、本来の仕事にかける時間を侵食していた。
「東京、静岡、奈良、鹿児島など1都7県の公立中学校教員約3000人への調査によると、部活動が負担だと感じている教師は44%もいます。また39%が指導経験のない部を担当していることも、負担に感じる一因でしょう。」教育現場に入り、じかに教員たちと接することにより「教師とはスペシャリストだ」と感じた代田氏は、昨今問題となっている体罰の温床がこのギャップにあると考えている。「運動部にしろ、文化部にしろ、経験値のない部を指導することに負担を感じます。また中学生くらいの子どもは、時に理不尽な主張を教師に投げてきます。こういったことが重なり、体罰という安易な指導方法に走ってしまう場合もあるのではないでしょうか。一流の指導者は体罰など行いません。体罰を与える時点で二流以下の指導者だといえるでしょう」
また「教職員の家庭環境も30年前に比べ、変化しています。世の中が少子高齢化に向かっている中で、介護の必要性がある高齢者を家庭に抱えた教職員が増えています。しかし依然として、放課後・土・日も授業以外のことで時間を取られてしまう。このことが更なる負担になっていることは明らかです」と代田氏は言う。
文部科学省が発表している最新調査(平成22年度)によると教職員の平均年齢は、公立中学校で44.2歳。過去最高齢だ。50歳以上の教職員が占める割合も公立中学で34.0%と前回調査より5.6ポイント上がっている。今後も年々上っていくだろう。厚生労働省発表した調査結果(平成22年度)によると、80~89歳の高齢者を介護している割合は、50~59歳の者が37.4%と最も高い。

校長室の前にはたくさんの賞状やトロフィーが並ぶ

部活イノベーション

「教師が本来の仕事に専念できるよう負担感を軽減する。」健全な教育の場を生成するために、代田氏が校長としてやらねばならないと思った課題だった。
「日本全体が週休2日制に移行する中、休日の部活動があるため教師は例外でした。しかし休日の活動は教師の実質的ボランティアで成り立っています。手を入れるべき部分だと思いました。生徒側の視点から考えても、教師が立ち会えないために練習ができない、教師に指導経験がないため、十分な指導を受けられないなど、教師に頼りきるには問題点もあります」
そこで取り組んだのが「部活イノベーション」だ。部活動を学校活動から切り離し、各部の保護者会が主体となり、部活運営を専門の会社に委託するのだ。経験豊富な指導者が技術を教えることはもちろん、活動中の安全管理も請け負ってくれる。1人として教師が参加せずとも活動が可能なのだ。費用は部員から徴収する。1回あたりの負担額は500円。契約するかしないかは、生徒・保護者会が決める。
実際導入後、活動ができない休日にもバッティングセンターで練習をしていた野球部員たちは、良きコーチを得て、メキメキと上達し大会で好成績を残した。自身もアメリカンフットボールの選手だった代田氏は、結果を出すこと、出せる指導をすることも部活動において重要なポイントだと考えている。「プロフェッショナルなコーチにつくことによって、子どもたちの可能性も広がります」

和田中を訪れた著名人たちからの一言

地域ぐるみで『学校経営』を

部活イノベーションは、教員の負担軽減、生徒の競技レベルの向上以外に、保護者・地域との繋がりをさらに深める結果を生んだ。「保護者・地域との信頼関係なくして、このイノベーションは成立しませんでした。」教師、保護者、地域が揃って学校経営をしていかなければならないと代田氏は強調する。地域住民がつくる「地域本部」(学校支援本部)は文部科学省の施策にもなり、全国で約9000校が設置するまでになった。
保護者のみならず、地域の高齢者や学生をも巻き込んで、夜間・土日を含んだ学校環境を整えている。「小中学校は地域コミュニティの中心にあるべき」との考えもあり、開かれた学校を目指し、誰もが学校との関わりをもてる環境をつくっている。「単にオープンにしていますでは、人は集まりません。人を惹きつける魅力的なコンテンツが必要です」
著名人を招いての公開授業は、保護者だけでなく地域の人が学校を訪れたくなるコンテンツ作りの一環だ。実際に授業を受ける生徒を見ることで次代の担い手を育てる当事者意識が生まれる。

公開授業ではゲスト講師へ質問が盛んに投げかけられる

協働的問題解決能力の育成

2月15日、和田中学校で「ICTを活用した世界標準の学力を目指して~基礎基本の定着から協働的問題解決能力の育成まで~」と題した公開授業とICT研究発表会が行われた。
田原総一朗氏や中村伊知哉教授を招いての授業で、地域住民にとっても魅力的なコンテンツだ。取り上げられたテーマは、代田氏が現代社会において求められている能力として重要視している協働的問題解決能力だ。「今後、日本の教育は世界標準を目指すべきで、その核となるのは協働的問題解決能力の育成です」と教育界の進むべき道を予見している。
「2000年から新しい教育観として求められてきたのは、答えの出ないものに対して意見を構築していく能力でした。しかし、今後必要なのは対立する意見を調整して問題を解決に導く能力です。反対・賛成が二律背反の状況で意見を戦わせわせるだけでは、何も解決しません。実際に起きている問題を皆でいかに解決していくのか。そこを考える力の育成が、今後日本が世界と肩を並べるためにも必要です」

「前任の藤原校長から始まった和田中学校改革はこれで10年を迎えます。学校運営協議会のアンケート結果では、90%を超える保護者の方々から『和田中学校に通わせて良かった』との回答を頂けました。私の目指す理想の公立中学校に少しでも近づけたのではないかと思います。これからは和田中学校での改革をさらに広めていきたいと思います」
代田氏の挑戦はまだまだ続く。


文:川口奈津子(編集部)

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