ホーム / Business / 教育 / 「時間とお金を無駄にしない」社会人大学院での学び方

「時間とお金を無駄にしない」社会人大学院での学び方

表1

学ぶ姿勢に不可欠なのは
素直さと柔軟性

 不景気・業績不振による企業の経費削減策が人材育成費におよび、ビジネススクールや社会人大学院への企業派遣が減少している。一方で社会人を対象とした専門職大学院の数は増加、大学院入学者数も2011年度は若干減少したものの、増加傾向を続けている(表1)。
 企業派遣であれば、海外MBAにトライする、または国内であっても昼間、全日制に通学することが可能だろう。しかし、年間数十万円から数百万円の身銭を切る自費組は、夜・週末制が主だ。職場の同僚に申し訳なさを感じながら6時に退社し講義に出席したり、週末をつぶしたりと、職を持ちながら学校に通って学ぶことのハードルは決して低くない。それでも入学者数が増加しているのは、社会において個人のスキルや能力がよりシビアに求められるようになってきたからだろう。
やると決めたからには最後までやり通す、最大限の成果を得る、とビジネスパーソンたちは心に決めて各学校の門を叩く。4月もしくは9月に入学した当初の顔はやる気に満ち、目は爛々としているに違いない。
 しかし、相当なモチベーションを持って勉学をスタートさせても、残念ながら思い描いた成果を得られずに終わる学生も中にはいるという。
 経営コンサルティング業界を経て、K.I.T.虎ノ門大学院で教鞭を執る三谷教授は「学びには素直さと柔軟性が必要」と言う。「学ぶとは新しい型を身につけることです。それはある種“大リーグボール養成ギプス”的な型にはめられること。『巨人の星』を知らない若い人には通じないですかね(笑)。そこに『はまってみよう』と思えない人は学べるものが半減しますね。過去に成功体験を持っている人ほど頑なです。自分の考えを持っていることは良いことですが、それを一旦捨てることができなければ、新しい意見や方法論を受け入れることはできません。どちらが良い、悪いではないんです。『知識を得るために入学した』と思うと失敗します。ビジネススクールは知識をただ得る場所ではなく、意識を変え、技を身につける場だと思うべきですね。その覚悟がなければ絶対に学べません」

三谷宏治
三谷宏治(みたに・こうじ)
K.I.T.虎ノ門大学院 主任教授。ボストンコンサルティンググループ、アクセンチュアでの経営コンサルティング、INSEADでのMBA取得などを経て2008年より現職。2011年11月出版の『一瞬で大切なことを伝える技術』がロングセラーに。DVD版も発売中

泉屋利吉(いずみや・りきち)金沢工業大学 大学事務局虎ノ門事務室長

知識習得と実践
繰り返しで力になる

 モチベーションとは放っておけば萎えるものだ。それゆえ“保つ”工夫が必要となる。早稲田大学がクォーター制の導入を決めたとの報道があったが、K.I.T.虎ノ門大学院では数年前から4期制を採っている。これは学びのスピードアップを図るためだ。通常前後期のシラバス(授業計画)が作成され、1科目10数回の授業が行われる。しかしK.I.T.虎ノ門大学院では1期2カ月(90分授業8回か180分授業4回)で1つの科目が終わるカリキュラムになっている。さらに、三谷教授が担当する「戦略思考要論」は4月最初の週で終了する。1週間で12時間の授業を受けるのだ。学生は「戦略的なものの考え方の基礎」を初めの1週間で学ぶ。考え方の基礎を修得した上で、それから4期のカリキュラムに臨むことで他のプログラムの修得が進み、実践への応用が早くなるのだという。
 同校にて学生のサポートにあたる泉屋氏は続ける。「最初の1週間は、みなさん青ざめていますよ(笑)。でもじきに時間を有効に使えるようになってきます」

 この1週間で前述のように自己の旧来の考えを捨てきれない人は、以降のプログラムにおいても吸収に時間がかかる。逆にそこで新しい考え方が身につけば、その後の学びのサイクルが格段に速くなる。
「社会人には学んだことを実践する場があります。学んだ次の日に、学んだことを使ってみる。そこでうまくいっても、いかなくても、自分のものになった実感がありますよね」
 理論、実践、振り返り、再実践というサイクルが短いスパンで繰り返される。この繰り返しこそが学びを実のあるものにするという。
「大学院に入学してこられる方は、漠然とした不安を抱えている方が多いんです。自分に自信がないとも言えます。ですから、実践を通して成功する、学んでいると実感することで自分に自信を持っていきます。『成功の鍵は目的意識があるかないかだ』と言う人もいますが、目的意識は最初から必ずしも必要ではありません。柔軟に学び、日々実践する姿勢を持つことで目的意識も生まれるのです」

学びの「見える化」が
モチベーション向上につながる

サポートしてくれる教職員の人柄、教室の雰囲気は明るい。互いに刺激し、ずっと付き合える仲間を得られるのも就学の利点

 学びを実践し効果があったとしても、すぐに会社で評価されるとは限らない。学生の中で起業・転職をあらかじめ視野に入れて入学するのは全体の3分の1以下だというが、実際はそれ以上の人がコース終了後、部署を変わったり転職をしたりする。「職場環境を改善したいとの思いで入学し、方法論を得て実践しても、周囲に受け入れの態勢がない場合は結果に結びつくまで時間がかかります。しかし自分のスキルは予想以上についていて、別の環境に移ることを考え出す、または誘われることが多々あり、移る方も多いですね」(三谷教授)
「企業派遣でないとしても、社員が得た能力をきちんと評価する姿勢を企業には持っていただきたいですね」(泉屋氏)
 成果に対する評価もモチベーションを保つためには大切だが、コースを修了した際に何を学び、何を得たのかを確認するため自らの学びの軌跡を残すことも重要だという。
「ポートフォリオ教育といって、学生の学んだプロセスを自らが確認し、教員が評価する制度を採っています。ポートフォリオ作成にも時間がかかりますから、学生はそれは苦しそうに書いています(笑)」(泉屋氏)
「ゼミで行う修士論文の作成は、最大の『学びの見える化』でしょうね。ゼミ生たちは自分の解決したい課題を設定し、各プログラムで学んだことをもとに分析・調査し、議論を深めていきます。それらを数十頁の論文やレポートにまとめるわけですが、書くということは学んだすべてを振り返る作業でもあるのです」(三谷教授)
 知識、自分の行動、振り返りを書き残し“見える化”することで、学んだことを意識するようになる。コース修了後、ファイルいっぱいになったポートフォリオが自分の1年なり2年の学びの軌跡を教えてくれる。
「ぐっと息をつめて数カ月間踏ん張る覚悟は必須です。そのうち人間は慣れてきますし、終わってみれば辛いことは忘れて『楽しかった』と言えますよ(笑)。そして何より、『役に立った』『自分は変わった』と感じられます」(三谷教授)
 社会人大学院ではモチベーションだけでは成果は上がらない。意識を変える“覚悟”が必要なのだ。


文:川口奈津子(編集部)

Scroll To Top