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【特集】世界と日本のLCC いよいよLCC市場に本格参入する日本移動の低価格化が人と世界を変える
驚くような低価格で拠点間移動を実現するLCC(格安航空会社)が世界中に誕生し、新たなマーケットを創出した。長距離バスの間隔で生活路線として利用されるようになった航空路線は、人々の空間移動の認識を一変させた。
廉価な価格設定が話題になっているが、LCCハブ化の成否は国の浮沈にも直結するかもしれない。
LCCが変える空
JAL破綻、羽田国際化、日本初LCC誕生
羽田空港国際化、日本航空(以下JAL)経営破綻など、日本の空を取り巻く状況が激変している。羽田空港への就航で話題を呼んだエアアジア、全日本空輸(以下ANA)による新LCC会社設立など、格安航空会社(Low Cost Carrier 以下LCC)の存在感が大きくなったことも変化の一つだ。
一般にLCCと呼ばれる格安航空会社は航空会社規制緩和法(Airline Deregulation Act)に伴い1970年代にアメリカで誕生した。その後各国の規制緩和でヨーロッパ、アジア諸国に広がり、フラッグキャリア(大手航空会社)を凌ぐ勢いを持つエリアもある。
フラッグキャリア各社は日本に限らず、国やIATA(International Air Transport Association 国際航空運送協会)による保護を手厚く受けてきた。そのため運賃は高水準に保たれ、移動の足として気軽に利用するにはハードルが高かった。しかし、運賃自由化、新規参入認可、オープンスカイ促進などの影響により、格安料金体系の航空会社が次々現れたのである。
LCCは設立の経緯により大きく3種に分けられる。財閥企業や自治体など航空業界外からの新規参入、フラッグキャリア子会社、旅行会社が自社ツアー利用を主目的として設立した会社である。日本に就航しているLCCでは、韓国のチェジュ航空は化粧品会社が、ジェットスターはオーストラリアのナショナルフラッグ・キャリア(国を代表する航空会社)カンタス航空が、中国の春秋航空は上海春秋国際旅行社が、それぞれ設立した企業だ。
日本の格安航空会社はLCCではない?
日本国籍の航空会社としてLCCと呼べるものはなかった。格安料金を売りとする新規参入組としては、静岡の流通大手鈴与が経営するフジドリームエアラインズ、旅行会社H.I.S.が設立したスカイマークエアライン(現スカイマーク)などがある。スカイマークは後にIT企業ゼロ創業者の西久保愼一氏が経営を引き継いでいる。そして、ANAによるA&Fアビエーションが登場したのだ。
ANAが香港投資資本とともにLCCに新規参入すると発表した際、「日本初のLCC」と騒がれた。実際、長年「45・47体制」でJALとANAの寡占状態だった航空業界に新規参入が認可された1997年以降、スカイマークエアライン、北海道国際航空(エア・ドゥ)、スカイネットアジア航空、スターフライヤーなど航空会社設立が相次いだ。しかし現状を見ると、大手の経営陣が介入し、コードシェア便を運航するなど、実質として大手傘下の経営が多く、大手と資本関係がないのはスカイマークのみである。先に挙げたフジドリームエアラインズも静岡を拠点にしたリージョン航空であり、LCCとは性格を異にする。
スカイマークは4月、成田と福岡・新千歳・那覇などを980円から運行する成田シャトル構想を発表した。海外に比べ高い日本の公租公課では考えられない運賃で、航空業界の価格破壊に挑んでいる。後述するLCCの典型的ビジネスモデルを踏襲しているが、EUで運賃1ユーロなどが実現可能なのは、その路線数の多さと頻度の高さゆえだ。スカイマークは路線数が圧倒的に少ない。低価格を実現する手法に注目が集まる。
単位付きたい、多頻度運航、機内販売
LCCは徹底したコスト削減で運賃を低価格化し、稼働率を上げて収益を生むビジネスモデルだ。保有する機体は1~2種に絞り、消耗部品の仕入れ、整備員の訓練、パイロットの訓練や免許習得費用などのコストを抑える。また座席間を狭めて座席数を増やし、一度の輸送量を上げている。
従業員に求められる仕事内容も多岐にわたる。客室乗務員が清掃をするのは当たり前で、パイロットが荷物の積み下ろしをする航空会社さえある。マルチタスクを担えなければ、不要な人材になるのだ。
機体の稼働率を上げるために、乗り継ぎを考慮しないポイント・トゥー・ポイントの短・中距離を高頻度で運航し、空港での駐機時間も短い。全席自由席の場合もある。定刻出発を基本とし、遅れた乗客を待つことをしない。すべてが稼働率を上げるための方策だ。
機内食サービスは基本的に有料。さまざまな機内販売のために、乗務員が頻繁に機内を往復するLCCが多い。コスト削減と同時に2次的収入につなげている。
航空券販売方法はネット直販が常で、代理店マージンを省けるとともに、価格操作が容易にできる利点がある。搭乗日何日前か、空席率はどれくらいか、など多様な条件を加味する細かい料金設定も自社サイトゆえ可能となる。
未発達な日本LCC市場
現在、日本へ就航する外資系LCCは就航順に、ジェットスター航空、セブ・パシフィック航空(フィリピン)、チェジュ航空、エアプサン(韓国)、ジェットスター・アジア航空(シンガポール)、エアアジアX(マレーシア)、春秋航空、イースター航空(韓国)、計8社、14路線、週142便(往復2便計算、経由便・コードシェア便除く)である。国内就航地は9都市だ。
一方、日系各社はスカイマークが22路線、毎日128便(5月9日現在)。A&Fアビエーションが12年3月からの運航を目指して申請している路線は、国内2路線、毎日14便である。現時点で日系が運航する海外定期便路線はなく、スターフライヤーが12年をめどに北九州・釜山間、A&Fアビエーションが関空・仁川間の運航をそれぞれ予定しているのみだ。
外資系LCCの自国内・国外での就航都市数(図表1)を見てみると、インバウンド・アウトバウンド共に、日本は未発達市場であることが分かる。各国のLCC会社数、市場での旅客数シェアと比較すると、日本におけるLCC事業の立ち遅れは明らかだ。
独占禁止法適用除外、着陸料。
日本でLCC市場が成長しない理由
日本でのLCC市場成長の妨げとなっているのは法令による規制だ。1997年に需給調整規制が廃止され、国内航空運送事業制度の在り方が変わった。すなわち、需給調整規制に基づく路線ごとの免許制から事業許可制に移行し、事業への参入を容易化したのだ。これにより、先に挙げた新興航空会社が誕生した。路線は参入申請時に提出する事業計画による事前届出制で、国土交通省が指定する混雑空港以外では、航空会社が自由に設定できるようになった。同時に運賃についても認可制から届出制になり、多様な料金体系が可能で、運賃水準引き下げの一助となった。
しかしIATA協定に対する独占禁止法適用除外措置については審議中だ。アメリカ・EU・豪州などはすでに廃止した措置だ。日本は、IATA協定に属さない航空会社間の乗り継ぎを考慮して運賃基準を設けている。カルテルとも取れる制度だが、過去においては他国も同様だった。近年になって、欧米・豪州で航空会社間の協議が行われて廃止した経緯がある。また、日本は外国籍航空機の国内運行を基本的に禁じているため、国内での乗り継ぎ便が日本国籍の航空会社に限定される。
受け皿としての空港にもジレンマがある。空港着陸料だ。羽田空港再拡張、地方空港活性化などのタイミングで軽減措置が取られるが、国土交通大臣がネットワークの維持を考慮して設定しており、海外空港に比べて高額だ。空港ターミナルビルなどを運営する主体と滑走路を有する主体が異なる空港があるため、諸外国では一般的な、空港ターミナルビルなどの運営収益を原資として着陸料の低廉化を図る仕組みが、日本にはない。社会資本整備事業特別会計空港整備勘定が空港運営の経理を一括して行っていることも、効率的な経営ができない一因だ。LCCはコスト削減のため、着陸料の安い、もしくは無料の地方空港や首都圏近郊の第2空港を選択する。LCC誘致を狙う空港として着陸料の裁量がないのは大きなハンデとなる。
文:羽田祥子、川口奈津子(編集部)
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