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KDDI 満を持してスマートフォン市場に登場


「未来へ行くなら、Androidを待て。」
LADY GAGAを起用したセンセーショナルな広告に挑戦的なキャッチ。予約(Web経由の購入宣言)は30万台に上った。ガラパゴスケータイ、略して「ガラケー」とも呼ばれる従来型携帯電話端末において、ガク割やダブル定額などの斬新な料金プラン、着うたをはじめとしたユニークなコンテンツをいち早く導入し、業界を席巻したKDDI。ところがスマートフォン市場では出遅れ、他2社の後塵を拝した。iPhoneの爆発的ヒットでソフトバンクの圧勝という幕開けになった日本のスマートフォン市場。満を持して市場に登場したKDDIはどのような攻勢に出るのだろうか。

スマートフォンへのソフトランディングと差別化

 従来型携帯電話端末とスマートフォンには明らかに違いがある。従来型に搭載された機能がそのままスマートフォンにあるとは限らず、ノスタルジーに取りつかれるスマートフォンユーザは意外と多い。KDDIはこの溝を丁寧に埋め、従来型からスマートフォンへのソフトランディングのために周到な環境を整えた。スマートフォン初のおサイフケータイの他、ワンセグ、赤外線通信、eメール(@ezweb.ne.jp)、デコメ、Cメール、緊急地震速報など、従来の機能を引き継ぎたいというユーザのニーズを細やかに満たしている。
 その上で問われる差別化。なぜauのスマートフォンでなければならないのか、明確なメッセージに共感されなければ手に取られない。「だからこそルックアンドフィールに徹底的にこだわりました」とKDDI株式会社コンシューマ事業本部サービス・プロダクト企画本部 プロダクト企画部長 石井隆宏氏は自信をのぞかせる。auらしさとは何よりもデザインへのこだわりだ。INFOBARをはじめとした4作品がニューヨーク近代美術館(MoMA)に永久収蔵されるなど、au design projectはデザイン性の高い端末を輩出し続けている。スマートフォンにもその持ち味を引き継ぎ「細部にまで魂を込める」(石井氏)と意気込む。
 まずはディスプレイ。10年11月26日に発売されたIS03はシャープ製で、その高精細液晶が特徴だ。画面ドット数は960×640と従来の2倍の解像度があり視野角が広い。特筆すべきはメインディスプレイのほか画面下部のタッチボタン部分がメモリ液晶になっている点だ。折りたたみ型の外部サブ画面のように不在着信などを表示可能で、画面を点灯させないと逃した着信が見えないiPhoneに対する優位性である。
 そして色。多くの人が鮮やかなオレンジ色に目を奪われただろう。「オレンジというカラーは挑戦でした。スマートフォンの世界では黒というイメージしかなかったので、有彩色を採用することについては社内で議論が分かれました」(石井氏)。だが慎重論は杞憂に終わる。予約状況を見るとオレンジが一番人気だという。auシンボルカラーのオレンジを多くのユーザが選んだという現実は、巷のiPhone人気に踊らされることなく、auのスマートフォンを忍耐強く待ち続けたauユーザの期待を反映しているかのようだ。
 さらにはユーザインタフェース(UI)やフォントにまでこだわった。携帯電話に特化したデザイン集団Ocean Observations(本社スウェーデン)が、ホーム画面やメニュー画面にあらゆる工夫を施している。ユーザが独自にU I のカスタマイズを楽しめるのはiPhoneにない魅力だ。フォントは読みやすさに定評のあるモリサワフォントを採用した。
 また、IS03、04というハイエンドモデルだけではなく、IS05、06といったカジュアルに持てるラインナップも用意した。スマートフォンの世界でプロダクト・ポートフォリオを組んだ戦略的な商品展開である。スマートフォンとの付き合い方に幅を持たせユーザの裾野を広げる。auの企画力の強さが垣間見られる。

Android au LADY GAGA

LADY GAGAを起用したセンセーショナルな広告は大きな反響を呼んだ

Androidが創り出す新しい世界

 いよいよ手にしたauのスマートフォン。Androidを通じてどんな世界を見せてくれるのだろう。
 10年11月下旬に一挙にリリースされた12種類のアプリは次の通りだ。「きせかえtouch」「au Smart Sports Run & Walk」「au Smart Sports Karada Manager」「au Smart Sports Fitness」「au one GREE」「au one Brand Garden」「au one ショッピングモール」「au one モバオク」「au one ナビウォーク」「au one 助手席ナビ」「au one ニュースEX」「じぶん銀行」。従来型において人気の高いアプリが並ぶ。
 注目したい新しいアプリが二つある。一つは「jibe」。mixi、GREE、Twitter、Facebookなどソーシャルメディアのサービスプロバイダは増え続け、今や1人当たり平均で4つのアカウントを持つといわれる。「jibe」は16のサービスプロバイダのアカウントを一つのアプリで自由自在に利用でき、今まで携帯電話では実現できなかったコミュニケーションスタイルを実現する。
 そして田中孝司社長自ら「禁断のアプリ」と形容する「Skype」も採用した。世界で最も利用されている、5億人を超えるユーザをもつ音声通信ソフトウェアで、Skype利用者同士の通話は無料となる。auのSkypeサービス用アプリ「Skype au」は11年11月末まで全世界のSkypeユーザへの通話料を無料にする。期限付きとはいえキャリア公認というこの「英断」は業界を震撼させた。音声サービスを生業にしてきた通信キャリアが、無料電話のサービスプロバイダと業務提携したのである。だが、ネット利用が多いスマートフォンの拡充により、加入者一人あたりの月間売上高(ARPU)で、11年度にデータ通信が音声を上回ると同社は見込む。自らの収益構造の変化を織り込み、禁断の領域に積極的に打って出る。KDDIらしいアグレッシブな勢いだ。
 11年3月末までにau one marketで180タイトルのアプリを用意する予定と石井氏は語る。「Androidは審査がないオープンな世界なだけに危ういアプリもたくさんあります。au one marketは、お客様に安心して安全にご利用いただくことを使命とします。フィルタリングの設定はもちろん、KDDIが直接お客様に請求するキャリア課金というシステムを採用することで利便性と安全性を確保し、楽しく便利なアプリをお客様に提供していきたいと思っています」。
 

マルチデバイス、マルチネットワークの時代へ

 
 忘れてはならないのがネットワークだ。固定、3G、CATV、WiMAX、WiFiとありとあらゆる手段を有するマルチネットワークがKDDIの強みである。
「携帯電話端末の進化はある程度行きついてしまっており、最近では、カメラの高画素化とデバイスの高度化のみでライフスタイルを大きく変えるような進化ではなく、結局は料金競争に陥らざるを得ませんでした。一方、スマートフォンは小型パソコンのようなもの。スマートフォンを持つ人が増えれば、新しい使い方によって生活はもっと便利になるでしょう。Androidは自由に開発することができるオープンなOSなので、家電などに組み込みやすく互換性があります。テレビ、PC、ブルーレイ、スマートフォン、タブレット端末など複数のデバイスがマルチネットワークでつながることで、したいことが、したい時間に、使いたいデバイスでできるという環境がようやく整います」(石井氏)。
 法人向けサービスでも、スマートフォン出現によってクラウド型ソリューションが一気に開花すると石井氏は見込む。「クラウドという構想がなかなか実現しにくかったのは、デバイスがボトルネックだったからかもしれません。日本でスマートフォンを活用したマルチネットワークがフルに活かされたオープン系クラウド型モバイルソリューションがいち早く成功すれば、海外の市場でも競争力のある強力な存在になるはずです」。
 一方でAndroid上でのアプリ市場は未熟だ。iPhoneに搭載されたiOS上で機能するアプリ市場「App Store」には及ばない。さらにはOSがオープンであるがゆえに有象無象のアプリが混沌としている現状は、壁であり、リスクでもある。KDDIの課題はau one marketの成熟化である。つまり、アプリ開発者とのエコシステムをいかに醸成していくかにかかっている。オープン化の時代、アイデアからリリースまでの時間が圧倒的に短くなり、従来とは比較にならない勢いで参加者が世界中から集まるだろう。強力なアプリで新たなビジネスモデルを生み出すことが、市場の勢力図を塗り替える大きなカギだからこそ、キャリアとアプリ開発者との関係をどう構築するのか、今後注目しなければならない。
「iPhoneに勝てるかどうかのパラメータはいろいろあります。商品のクオリティやデザインの勝負だけではありません。今後サポート&サービスを通じてのユーザの経験が蓄積されていきます。つまり買い換えという次のステップの時、我々がお客様に何を提供できるかが勝負です。新しいデバイス上で、競争を通じてサービスを進化させていくことが重要になってくるでしょう」(石井氏)。
 NTTドコモが11年末に次世代高速通信LTE(ロング・ターム・エボリューション)対応のスマートフォンを発売することに対抗し、KDDIは11年度早々に3Gの4~5倍の高速通信が可能なWiMAX対応のスマートフォンを国内初で発売するなど積極攻勢に打って出る。KDDIのお家芸であるネットワークは、スマートフォン時代の幕開けとともにこれまで以上に生命線となる。しかしながら、充実のネットワークとデバイスだけでは新しい価値は生まれない。アプリケーションという高いレイヤーでの競争に勝ち抜いてこそ、KDDIは我々に価値をもたらし、未来を創り出す。
 成功体験のあるKDDIに、新たな未来を期待したい。


文:加藤紀子(編集部)

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