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中国ピアノ事情~中古ピアノと中国ビジネス
子どもの頃ピアノを習っていた「ブアイソー世代」のみなさーん。今、ピアノはどこにありますか? 実家のリビングで飾り棚と化している? それとも、とっくに手放してしまった? 手放したピアノはどこに行ったのでしょうか、ちょっと気になりませんか。その辺りの最新事情をスギタ楽器センター・杉田昌弘氏に聞きました。
“原産国のピアノ”
楽器店が中古ピアノを買い取った場合、すべてのピアノが売れるわけではありません。内装がきれいで中身もいい状態プラス手頃感がないと、日本のお客さんは買ってくれません。しかも今、日本では住宅事情から電子ピアノが人気。生ピアノの国内販売台数は年々少なくなっています。そうすると、売れ残る商品が当然出てくる。そこに目を付けたのが中国、ベトナム、韓国など海外のバイヤーです。もちろん、以前から日本製の中古ピアノは欧米に輸出されていましたが、アジア諸国に輸出される日本製中古ピアノの台数は今、ケタ違いに多いのです。
日本では東京オリンピック後の1965年から1975年くらいが、みんながみんな、ローンを組んでもピアノを買うという時代でしたが、北京オリンピック後の今、中国がちょうどそういう時期に入っています。大ざっぱに言えば、富裕層がヤマハ、カワイという日本の2大ブランドの新品を買い、その下の高所得者層がその中古を買い、そうした流れがだんだん下の層に広がってきている、というイメージです。
中国では日本のピアノは「原産国のピアノ」と呼ばれ、とても人気があります。日本人の感覚からするとピアノの原産国はヨーロッパですが、多くの中国人にとっては日本のピアノが“オリジナル”なんですね。中国にもピアノメーカーは数百社とありますが、彼らのお手本は日本のピアノなんです。
日本のピアノが売れる理由
このように日本の製品が中国で売れていると言うと、「物が良いから」と思われるかもしれません。しかし私は「値頃感があるから」、つまり他の選択肢よりも値段と質のバランスが良いからに過ぎないのではないか、と考えています。
ピアノの本場と言えばやはりヨーロッパですが、ヨーロッパ製のピアノはすべてのメーカーをあわせても数十万台と、累計の製造台数が少ない。そのため、100年前に製造された古いピアノであっても、価格があまり下がりません。これに対して日本で作られたピアノの台数は多い。ヤマハ、カワイだけでも累計何百万台というピアノが製造されています。したがって、中古市場に出る数も多い。だから、価格が下がるし、お客さんのニーズに合ったピアノを選ぶこともできる。しかも、日本のピアノは丈夫で品質が安定しています。
もちろん中国のピアノメーカーの中には、年単位ではヤマハやカワイに匹敵する台数を製造するメーカーもあります。ただ、必ずしも質は高くありません。それでも新品ですから、価格は高い。だから、思うように売れない。そこで、同じ価格帯でもっと質の良い物はないか、と中国の楽器業者が探してたどり着いたのが、ヤマハやカワイの中古ピアノだったのです。
お客さんとしても「ヤマハなら、中古でも安心」。何が安心か。例えば中国人のあるお客さんからは、ヤマハのフルートを購入するに際してこんな問い合わせがありました。
「これは本当に日本で作っていますか? 正真正銘、ヤマハで作ったヤマハの商品ですか?」
偽物じゃないか、部品が入れ替わっているんじゃないか、と心配しているのです。保証書や鑑定書といった道具やイメージに頼る段階、と言ってもいいかもしれません。日本人も、まだ海外旅行が一般的でなかった頃はそういう傾向にありましたが、今、日本のお客さんを見ていると、物それ自体を見比べて選んでいて、選択に多様性があります。中国のお客さんはまだ一歩手前の段階にいて、しかも、自国で作った物を信用していない(笑)。中国人自身が、中国人に対して「本当のことを言っているかどうかわからない」という疑いの目を常に向けているわけです。中国人の買い物は「中国はアブナイ」「日本は安心」と、イメージが先行している段階なんですね。
そういう事情を知ると、中国人にとって重要なのは「日本製であること」ではなく「中国製ではないこと」なのではないか、中国人の日本製品への信用とは、品質への積極的な信用というより、ズルがないという、切実だがレベルの低い、消極的な信用にすぎないのではないか、と思えてならないのです。
それでも今は、売りやすいから中国のバイヤーは日本の中古ピアノをたくさん仕入れて行きます。でも、10年、20年後もそうだとは限りません。中国製のピアノにもいい物はあります。日本では、中国製だとなかなか売れないから、バーゲン品扱いとなり、利ざやが少ないから整備もせずに売り、文句を言われたら「中国製だから」で片付ける、という悪循環がはびこっているために、中国製ピアノの評判は良くありません。しかし、物は決して悪くありません。きちんと調整すれば、いい音が出ます。楽器製作は最終的には人間の手作業なので、携わった人の能力次第で良くも悪くもなるんです(笑)。とすると、いずれ中国人の物の選び方が洗練されてきたら、中国製に逆転される可能性は十分にあります。
ですから、「今、日本の物が持てはやされているのかもしれないな」くらいの冷静な感覚を持っていようと心がけています。楽器に限らず「日本はすごい」と過信していると、危ないのではないでしょうか。
スギタ楽器センター(杉田楽器店)
www.sugita.co.jp
文:渡辺麻実
自分で自分らしいスタイルを楽しむセレクトショップ SHINAZINA
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