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【Point of View】プレゼンテーション(5) ~振りかけるだけで話がイキイキする魔法の粉とは?

女性経営者のグローバル視点

【Point of View】プレゼンテーション(5) ~振りかけるだけで話がイキイキする魔法の粉とは?

前号では、「ことば」の始まりについて触れ、使うことば、選ぶことばの大切さ、プレゼンなどの場でことばを厳選することの重要性について触れました。
ことばの形成期、類人猿たちは、乳児が使う喃語のような、動物の鳴き声ともとれる声を発し、ボディランゲージや目の前にある物などを使って伝達手段を補ったのではないだろうかと思われます。その後の発達の中で、言語を使えるようになった際、言葉はどうやって形成されていったのでしょうか。よく、幼い子どもが犬を指して「ワンワン」と言ったり、何かを説明するのに(往々にして意味不明に)「それがね、ドンってなって、ワッてなったの」などという表現で話すのを耳にしますが、もしかしたらヒトも、最初のころはそのようなプリミティブな擬声語・擬態語で会話をしていたのが、だんだん周囲の人が合意する「ことば」を共通化し、「言語」としてルール化することでみんなの物になっていったのかな、などと想像します。
この擬音語、擬態語はフランス語でアノマトペ(onomatopée)、英語ではオノマトペア(onomatopoeia)とも総称されまして、私はこの音が好きなので、ここでは以後アノマトペという語でお話ししたいと思います。格調高い文章では、稚拙な表現だとして退けられることの多いアノマトペですが、その一方で、特に口語表現の世界では、表現を躍動感あふれるものにする効果があると思います。

翻訳者の苦悩

まず、このアノマトペ、実は日本語は数ある言語の中でも一番多くの表現があるということです。例えば、「笑う」という動作を表現するだけでも、「にこにこ、にこっと、にっこり、にやにや、にやっと、にやり、くすくす、からから、げらげら、にんまり、にっと、にたにた、にたっと、へらへら」などなど、たくさんの言葉があります。英語では、laugh、smileに加えて、cackle(キャッキャッと)、giggle(くすくす)、grin(にやり)、whinny(馬のように笑う)などの表現はありますが、今挙げた日本語の「笑う」を訳そうと思っても、ぴったりとした訳語はありません。仕方なく文脈で言葉を補って、「笑い」の種類を伝えたりせざるを得ません。中国語では、笑い声の擬声語は、「嘻嘻(にこにこ)、哈哈(はっはっは)、呵呵(はっはっは)、嘿嘿(へへ、ふふ)、嗤嗤(せせら笑う)、咪咪(にこにこ)、 嗤(ぷっ)」など数種類あるそうですが、場面に応じて、笑い方が瞬間的だったのか、それとも長いこと持続しているのかなど、言葉を補って状況を説明する表現を加えているそうです。
翻訳というお仕事の辛さがなんだか身に染みてきます。他方で、日本語がどうしてこれほどまでに豊富な表現擬態語・擬声語表現を手にするに至ったのか、想像するだけでなんだか楽しくなります。大陸や北方、あるいは南方の島の方からいろいろな言葉が混ざった結果なのでしょうか。

魔法の粉のような“アノマトペ”

「目がキラキラしている」は「目が光っている」では表せない表情があり、「牛乳をがぶがぶ飲む」は「勢いよく飲む」では表せない勢いがあります。
こうしたアノマトペは、話し言葉だけでなく、書かれる表現にもあります。例えば、年々長文化してきている外食店のメニュー表記。「水菜サラダ」と言う代わりに、「シャキシャキ水菜にカリカリジャコ乗せ」といった具合です。「もっちり」「ふんわり」「とろり」などの表現も多用されているように思います。いずれもただ、「パン」「卵」「プリン」と言われるより、アノマトペがつくとなぜか、一層おいしそうに聞こえるのが不思議です。最近では、外食店のみならず、コンビニの商品名に至るまで、気付けば身の回りのあらゆる商品にアノマトペの粉が振りかけられているような気がします。きっとある時、この振りかけるだけで魅力的な食べ物に聞こえる「魔法の粉“アノマトペ”」の存在に外食業界が気付いたのかもしれません。
企業のブランド名やコンセプトなどにも使われることがあります。適度な湿度を「うるるとさらら」と表現しているエアコンブランドがあれば、Zoom-Zoomというブランドコンセプトを打ち出している自動車メーカーもありますね。同自動車メーカーによると「子供の時に感じた動くことへの感動を愛し続ける皆様のために」表現されたそうです。CMで聞くたびに楽しい気持ちになります。
さらに、スポーツ界では陸上選手の走り方を向上させるのに「ポンポンではなくグイグイ走れ」というようにアノマトペが使用されていたり、医療の現場では病気の症状を表現するのに医師が「チクチクしますか?」「ズキンズキンと痛みますか?」と積極的に患者にアノマトペを使って語りかけていたり、ロボット開発の現場では、いかに滑らかな動きにするかという議論でもアノマトペが多用されていたりと、魔法の粉によって、実は日本人の表現力が範囲も深さも広がっていることに気付きます。


aska・9097-1-3竹内 明日香(たけうち・あすか)

日本興業銀行(現みずほFG)にて国際営業や審査等に従事後、2007年独立、海外向けに日系企業の情報提供を開始。2009年にアルバ・パートナーズを設立し、国内企業の海外事業支援と情報発信支援(プレゼンサポート等)を提供。2014年12月に次世代の世界での発言力向上を目指す一般社団法人「アルバ・エデュ」を設立。音羽の森オーケストラ「ポコアポコ」(アマチュアオーケストラ)主宰。東京大学法学部卒業。日本証券アナリスト協会検定会員。

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