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【ある女性経営者のグローバル視点】日本人は、腹が白くて騙されやすい?

【ある女性経営者のグローバル視点】日本人は、腹が白くて騙されやすい?

日本人は性善説だ、という議論がよくなされます。人の心の中まで透視することはできないですし、各国の人のお腹を比較してやっぱり日本人は「腹白」ね、なんて実験もできないですし、定量的にはなかなか比較できないネタなので、何とも言えないのですが、ちょっと考えてみました。

犯罪率世界最低の国「日本」

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ありがたいことに、周囲を海で囲まれて敵からの襲撃が少ない地理的環境にあり、実際に犯罪件数も世界の中で最低水準にある国なので、「性善説な国民」というのも当然の帰結かもしれません。
例えば強盗や恐喝、窃盗など在来型10犯罪の被害者率を見ると、日本の犯罪率は2005年時点でOECD加盟国の中ではスペインに次いで2番目に低く、うち凶悪犯罪(殺人・強盗・強姦・暴行)の発生率に至っては、いずれもOECD諸国の中で最小値。さらに、刑法犯の認知件数についても、2013年は約132万件と、ここ11年連続で減少しているという傾向が見られます。(公益財団法人日本財団の助成のnippon.comより引用)
国内で格差が進んでいるとは言われていても、まだまだ中流層の厚みがあり、移民も受け入れておらず、銃刀法のおかげでお隣さんが拳銃を所持しているなんていう物騒なことも普通はないからなどなど、この点については色々な議論ができるのでしょう。地域によっては家に鍵を掛けないで、お隣さんに声をかけて外出、なんてことがまだあるのも、外国人からしたら論外でしょうし、日本で一番びっくりしたのは自販機が盗難にも遭わずに全国津々浦々にあることだと言っていた人もいました。

海外は「性悪説」?

ビジネスの世界でも、日本の会社同士の取引であれば雛型の約款ぺらり一枚で中身もろくに見ずに押印、なんていう世界もまだまだあるように思います。海外の企業と仕事をしてみて、あまりの契約書の厚さに驚いた、という方もいらっしゃるのではないでしょうか。私自身も新入社員の頃、アジアの財閥系グループと仕事をしていたのですが、数週間にわたる電話とメールとファックスでの話し合いの末にようやく先方に契約書へ署名をしてもらい、署名鑑(サインを確認する帳簿)を確認しながら「やれやれ……」思っていた数日後、その先方が「この契約はなしだ、これは自分のサインではない」と言い出して、脳天パンチを食らった気分になったことがあります。一緒に仕事をしていた先輩からは、「そんなの日常茶飯事だからいちいちショック受けていたら仕事できないぞ」と言われ、「おーい、なんだよ、それ!」と自分のそれまでの常識がぐらついた日のことを覚えています。幸いなことに、私のそれまでの人生では、人に騙されたり、騙されているのではないかと疑うような経験が乏しかったからでしょう。世の中の取引には色々なリスクがあること、諸外国での弁護士活用の重要性などを身を以て学んだ瞬間でした。
またヨーロッパに赤ん坊を連れて旅行した際、階段でタワーに登ろうとして、係りの方に「ベビーカーはどこに置けばいいですか?」と聞いたら、「は?」と怪訝そうな顔で、「盗まれるだろうから持ってあがってくれ」と言われて驚いたこともありました。日本では、室内参加型のアトラクションなどで、持ち込めないベビーカーがずらりと陳列されている光景をよく目にしますが、確かに言われてみれば海外ではあまりそういう光景は見ない気がします。
このように、人を疑うことなく信頼関係を前提として人と付き合ってきた日本人は、その点において、世界からお人よしとして好感をもたれたり、リスペクトされたりする国民ではあるかもしれません。それはとても素晴らしいことだとは思うのですが、一方で、それで本当に良いのか、とも感じるわけです。

負の面も?

前述のように犯罪率が低い反面、通称「オレオレ詐欺」は、「母さん助けて詐欺」と呼称を変えてみたり、警告を呼びかけるパトカーを街中で頻回に見かけますが、一向に収束する気配がないようです。この振り込め詐欺の広がりについては、日本人が容易に人を信じやすい、騙されやすい典型的な例かと思われます。
またここのところ、日系企業が知的所有権に関連する訴訟でアメリカの裁判所から数百億円規模の納付命令が出される例や、カルテル違反で課徴金のみならず取締役が禁固刑に処せられるといった事例を多く耳にします。もちろんこれらは「騙された」とか「知らなかった」という抗弁ができない面もありますが、日本人の脇が甘いとされる一面のようにも思われます。
さらにこの騙されやすいという性質がゆえ、個人や会社単位の被害では済まずに、国全体の悲劇にまで発展することもありえます。先日もテレビの特集で引用されていたのでご覧になった方もいらっしゃると思いますが、伊丹万作氏が第二次世界大戦後、以下のような文章を寄稿していました。

多くの人が、今度の戦争でだまされていたという。みながみな口を揃えてだまされていたという。私の知つている範囲ではおれがだましたのだといつた人間はまだ一人もいない。<略>そしてだまされたものの罪は、ただ単にだまされたという事実そのものの中にあるのではなく、あんなにも造作なくだまされるほど批判力を失い、思考力を失い、信念を失い、家畜的な盲従に自己の一切をゆだねるようになつてしまつていた国民全体の文化的無気力、無自覚、無反省、無責任などが悪の本体なのである。<略>「だまされていた」といつて平気でいられる国民なら、おそらく今後も何度でもだまされるだろう。いや、現在でもすでに別のうそによつてだまされ始めているにちがいないのである。

『映画春秋』創刊号 戦争責任者の問題
伊丹万作・昭和21年8月 青空文庫より転記

疑わない、知ろうとしない、信じやすいということ自体が、恐ろしい力となってしまう可能性を孕んでいる、という問題を巧みについた文章だと感じます。昨今も新聞記事がねつ造であったこと、それを信じて起こされた行動によって多くの国益が毀損されていたことが問題になりました。そもそもメディアで報道されることが決してすべてではなく、物事を多面的に見ることは、不可欠なはずですが、その必要性・重要性について、学校教育の中ではあまり教えられてこなかったような気もします。道徳の授業が多少増えたりしても、昔も今も「信じる者は救われる」という思想が根底に流れているように感じます。

Education First

©アルバ・パートナーズ

©アルバ・パートナーズ

そうした、これまでスタンダードとされていた教育のあり方への疑問や、「これでいいのか? 日本の将来は……」といった焦りから来る衝動は、どうしても行動として起こさないと! っという信念めいたものが私にはありまして、近い将来、号を改めて詳しくお話ししたいと思っておりますが、この夏から「次世代向け道場」を当社で開設し、プレゼンの基礎である発言力の向上はもちろん、物事を多面的に捉えることの大切さを学ぶ機会を、子どもたちに提供しています。
実際に小学生向けに「マグロの捕獲量の減少」をテーマに行った時の様子をご紹介しますと……

講師:みんな(が政策担当者)だったら、どうする?マグロを食べる文化は日本の大切な文化だからこのまま捕り続けて良いってする? それとも、思い切って捕獲をやめて我慢することにする?
子どもたち:んー。捕る量を今の半分にしたらどう?
講師:いいね! では日本がルールを決めて半分にするとする。でも近隣諸国は漁獲を続けていたら、日本の漁師さんだけが損しない?
子どもたち:(少し考えて)だったらルールを世界の国と決めればいいんだよ!
講師:でもね、日本が守っても他の国がその条約を批准しなかったら困るよね? 実はそういうことって、マグロに限らず、いろんな世界であるんだよ……(以下略)。

といった具合です。
これまで、ノーベル平和賞を受賞したマララ・ユスフザイさんが本国パキスタンでは必ずしも100%祝福されているわけではないことや、イスラム教と欧米の主張とでは、どちらかが正しくてどちらかが間違っているんだろうかといったような話もしました。
子どもたちは思いがけない切り口の話を聞くと、最初、「え? 信じられない!」という表情を見せます。私はちょっと意地悪だなと思いながらも内心ニヤニヤなわけですが、そこから、あぁでもない、こうでもないっと、子どもたちなりにいろいろ考えて自分の意見を言ってくれます。
冒頭の性善説・性悪説でいうところの性悪説を子どもたちに植え付けたいというわけではありません。物事を別の角度から見る訓練をすることで、一つの説のみに従って行動することがないよう、正しい解を自ら導けるよう、或いは異なる意見を言う人の背後にある考え方まで理解しようとする努力ができるよう、思考に厚み・深みのある人間に育ってほしいと思うのです。
性善説は、中国の思想家孟子が「善なる性は努力して伸ばさない限り人間は禽獸同然」と説き、性悪説の語源となった荀子も、「善は後天的な作為の矯正によるもの」と言っています。いずれも学問・教育の重要性を別の角度から述べたに過ぎないと捉えることができるかと思います。
日本人の良さはそのままに、それがそのまま「騙されやすい」方向へと向かうのではなく、物事を多面的に見る力を養えるよう、微力ながら次世代を担う子どもたちに対する支援を続けることで、貢献できればと思っています。日々、目の前のビジネスを通じて様々なことを感じ・学びつつ、マララさんの国連演説でのセリフ“Education first”が私の心にも深く響いています。


竹内 明日香(たけうち・あすか)
日本興業銀行(現みずほFG)にて国際営業や審査等に従事後、2007年独立、海外向けに日系企業の情報提供を開始。2009年にアルバ・パートナーズを設立し、国内企業の海外事業支援と情報発信支援(プレゼンサポート等)を提供。2014年12月に次世代の世界での発言力向上を目指す一般社団法人「アルバ・エデュ」を設立。音羽の森オーケストラ「ポコアポコ」(アマチュアオーケストラ)主宰。東京大学法学部卒業。日本証券アナリスト協会検定会員。

 

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