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【経営学エッセンシャル】 「お客様は神様」なんかじゃない!?

【経営学エッセンシャル】 「お客様は神様」なんかじゃない!?

 タイトルでいきなり疑問を投げかけておきながら矛盾するようですが、まずは「お客様は神様です」というテーゼの主唱者であり大歌手の、三波春夫さんに敬意を表しつつ、その真意を確認しておきましょう。メッセージがシンプルかつパワフルであるが故、誤解されることも多いようです。三波さんのオフィシャルサイトから引用させていただきます。
「このフレーズが真意と離れて使われる時には(中略)俗に言う“クレーマー”の恰好の言いわけになってしまっているようです」「本当に意味するところについては(中略)次のような内容でした。『歌う時に私は、あたかも神前で祈るときのように、雑念を払って、心をまっさらにしなければ完璧な藝をお見せすることはできないのです。ですから、お客様を神様とみて、歌を唄うのです(後略)』」1)つまり、お客様は全身全霊を捧げてエンタテインする(もてなす)対象ではあるものの、だからといってわがままがなんでも通るはずもなく、おそらく客側にもエンターテイナーに対する敬意や愛情がある状態ではないでしょうか。以上を確認したうえで、なお、本稿で主張したいのは、マーケターにとって、いつもお客様を神様扱いすることだけが本筋であるのか、という点です。

STPマーケテイング

 さて、お客様を神様扱いするマーケティングとは何か。この代表として、マーケティングマネジメントといえばこの人、フィリップ・コトラー教授(ノースウェスタン大学 ケロッグ・スクール)によるSTPマーケティングを挙げましょう。

S : Segmentation (市場細分化)
T : Targeting (顧客選択)
P : Positioning (差別化)

 読んで字のごとく、売れる市場に特化したり、顧客を適切に選択したり、他社との差別化をアピールしたりすることです。そのためのツールが、4Pと4C、SWOT分析、BCGのポートフォリオ、競争戦略、成長曲線、ペルソナなどなど、ロジカルでビジュアルで華やかなものがそろっています。それぞれがどんな道具であるかはマーケティングのテキストをあたってもらうとして、要は、「余をその気にさせる条件さえそろえば買ってやってもいいぞよ」と余裕綽々で待っている神様(お客様)へのアプローチといってよいでしょう、これはこれで非常によく体系化され、条件次第では極めて実効性の高い理論群だと思います。ただ、こればかりやっているとフラストレーションがたまり、たまには神様の方からこっちを見るように仕向けてみたい、という願望が頭をもたげてくるのかもしれません。

デ・マーケティング

 スティーブン・ブラウンというやんちゃなマーケティング学者(ウルスター大学教授)が、そのコトラー教授に論争を吹っかけ(タイトルはずばり「コトラー流マーケティングへの警告」)、かつ手玉に取った顛末が、ダイヤモンド社発行ハーバードビジネスレビュー2002年7、8月号に再録されています。その経緯を、往復書簡や論文から拾って、脚色を加えつつご紹介しましょう2 )。ブラウン マーケティングを「まじめくさった分野」にしてしまったのはコトラーだ。たまにはお客をいじり倒すくらいのこと(ブラウン流レトロ・マーケティング)、やってやれ!コトラー 嘘や悪ふざけと紙一重のレトロ・マーケティングなんてとんでもない!ブラウン これはこれは、何をおっしゃるコトラーさん。私のレトロ・マーケティングの手法こそ、あなたが1971年の論文「デ・マーケティング」で唱えた手法とほぼ同じなんですよ!どうです、コトラー博士、まんまとブラウン先生の挑発に乗って、しかも筋書き通りの罠にはめられた感じですね。。その応酬だけでも十分エキサイティングなのですが、中身もまた吟味するに値します。デ・マーケティングというキーワードが出てきましたが、ひと言でいうと、マーケティングの逆のことをする、つまり、一旦売らないように、あるいは、売れないようにする行動のことです。その理由にはいくつか考えられますが、ここでは思い切って次の2つに分けます。ひとつ目は、受動的デ・マーケティングとでも呼びましょう、何らかの事情で販売量を抑えなければならない事態のときに適用されます。たとえば売れすぎて供給(生産)が追いつかないときや、極端な場合は麻薬などの反社会的なモノの流通を抑制する場合などもこれに含まれます。2つ目は能動的デ・マーケティングとでもいうべき行動で、本来もっと流通させることができるのに、敢えて販売量をコントロールして市場での不足感や飢餓感を煽ろうというものです。ブラウン先生の言葉を借りれば、「憎まれ役となって顧客をじらす、商品の限定性、神秘性、(キャラクター)強化、娯楽性、トリックスター性などを付加する」となります。STPマーケティング信奉者から見れば、神を神とも思わぬ所業のようです。
 では、ここで筆者発案のお遊びですが、「デ・マーケティングではお客様を神様ではなく、○○扱いしている」この○○に当てはまる言葉を皆さんも考えてみてください。もちろんこの問題にたった一つの正解があるわけではありませんが、洒落が利いたものほどよい答えといいたいですね。


essencial_portlate前川 佳一(まえがわ・よしかず)

京都大学経営管理大学院特定准教授。1982年京都大学工学部冶金学科卒業。1995年企業派遣によりボストン大学経営大学院修了(MBA)。2007年神戸大学大学院経営学研究科修了:博士(経営学)。2008年3月まで、総合家電メーカにてデジタル機器の技術・企画に従事。2008年4月より現職。大阪市生まれ。

 

 

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