ホーム / Business / 経済 / 実践サバイバル投資術 米中Cool Warの行末
実践サバイバル投資術 米中Cool Warの行末

実践サバイバル投資術 米中Cool Warの行末

 投資ビギナーは「今どの株を買えば儲かるの?」とばかり考える。しかし1、2回大当たりしたところで大きな相場の流れを見逃してしまうと資産を守る事すらできない。自然災害、景気循環、人口動態など考慮すべき点は多いが、現時点では米中間のCool War (静戦)の行方が今後10年から20年では最も重要な要素となりそうだ。

米ソ冷戦と米中Cool War

 米国とソ連はイデオロギーの対立だった。お互いに大量の戦略核兵器を保有していたため第3次世界大戦とはならなかったものの、代理戦争と軍拡競争で「米ソ冷戦」と言われた。ともに軍事・科学技術大国ではあったが、経済力は米国が圧倒的に優位でソ連の背伸びが体制崩壊につながった。
 ソ連崩壊後は米国が唯一の超大国であったが、近年、世界第2位の経済大国になった中国が米国に対等な超大国としての扱いを求め始めた。鄧小平が打ち出した韜光養晦(とうこうようかい:爪を隠して力を蓄える)戦略からの大転換である。2030年頃には中国が経済規模で米国を凌ぐとされ、軍事力の近代化も強力に推し進めている。「中華民族の偉大な復興」を掲げ、周辺国への圧迫を続ける“遅れてきた帝国主義国家”である。
 一方、米中両国は双方にとって極めて重要な貿易パートナーでもある。また、人権抑圧等の問題を除けば米国とのイデオロギー対立はない。ここが米ソ冷戦とは違う。しかし、主戦場のサイバースペースでは中国が米国から軍事関連情報や民間企業の知的財産を盗んで多方面で利用する一方、米国もインターネット上の情報収集を強めているようだ。こういった状況から、米中の覇権争いは米中Cool War( 静戦)と呼ばれている。つまり、冷戦(Cold War)よりはちょっと生温かい。

近隣国へ圧迫を続ける中国と米国にとっての中国の脅威

 戦後のお花畑的な学校教育により、日本では中華人民共和国は「平和的発展」を目指してきたと考えている人たちもいる。しかし実際は周辺国との軍事紛争が絶えない(表)。加えて1966年から10年続いた文化大革命では数百万人から1000万人が殺戮され、1989年の天安門事件でも数千人の犠牲者がいたとされる。この国が自国を「平和国家」と主張し、過去70年外国との軍事紛争がない日本を軍国主義と非難する状況はどこか奇妙ではある。中国からみた場合の仮想敵国は、おそらくインド、日本、フィリピン、ベトナム、台湾であり、その背後にいる米国は中国にとっては大きな軍事的障害である。
 一方、米国から見た場合、中国は米本土攻撃能力も備え、軍拡とサイバーセフトを続け、周辺国への軍事的な圧力を強める軍事的脅威である。また、20年以内に経済規模で米国を抜くとされ、人民元を米ドルに代わる基軸通貨にする野望を抱き、外交的にも反米国家との連携を厭わない中国は大きな懸念だ。同時に米中は経済的な結びつきが極めて深い。これが米中首脳会談でオバマ大統領が、「今後のアジア太平洋において、中国が平和的に台頭するならば、米国は中国と協調する用意がある」(中国が平和的に台頭しないならば容認しない)と条件付きで関係強化を述べた背景である。

58_survival

「ホメ殺し作戦」で中国の弱体化を狙う米国

 現在の中国は「ジャパン・アズ・ナンバーワン」などと煽られていい気になっていた25年前の日本と似ている。中国人ネチズンは「米国はいずれ衰退する国」、「中国の覇権復活は歴史の必然」、「中華民族の人種的優越」といった主張を繰り返している。これもかつて日本でよく聞いた話だ。
 米中Cool Warの現状を鑑みると、米国はソ連に対して行った軍拡競争・代理戦争ではなく、1980年代の対日政策で用いられた「ホメ殺し作戦」によって中国経済の弱体化を図っているようだ。「大国だから人民元の国際化は当然」「為替取引の自由化、金融制度改革は必須」「持続的な成長のためには内需主導型経済への転換が急務」「公正な投資環境を整備すべき」というロジックは、1980年代の日本に対する要求と同じである。この流れを考えると、今後以下のような対中経済政策が推し進められるはずだ。
◎人民元の切り上げ:中国の輸出競争力を削ぎ、経常黒字を減らす
◎金融取引を自由化:世界の金融制度に中国経済を組み込む
◎バブル崩壊:経済成長のスピードを大幅に落とし、国力を削ぐ
◎知的財産権の保護:正当な対価を回収し、中国企業のただ乗りをなくす
◎法による支配を徹底:外国企業の権益を保護し、民主的な政治体制への移行を促す
◎国営企業の民営化:中国政府の関与を減らし、外国企業との公正な競争を促す

米中Cool warの3つのシナリオと投資戦略

 中国も日本の辿った道をよく研究している。しかしながら、工業品への高関税で自国産業を保護していたり、外国企業への規制や知的財産権の保護が不十分であるなど、当時の日本よりも正論に反論し難い立場にある。また、1990年頃の日本と同様に生産年齢人口がピークを迎え低成長経済に移行しつつある。さらに、社会不安を招きかねない水準の貧富の格差があり、公害がひどい。このような状況で考えられる米中Cool Warシナリオは以下の3つだ。

シナリオ1 ホメ殺し作戦で中国はおとなしい龍に

 中国が膨大な対米経常黒字を続け、不公正な状況を改めているとはいえない。今のところ人民元の段階的切り上げを行っているが、いずれ人民元取引自由化、金利の自由化も求められるだろう。最近、欧州に対して中国が太陽電池パネルで自主規制を約束したが、これも日本が行った自動車の対米輸出規制とそっくりである。今後、米国はTPPへの参加条件として関税の大幅削減と国営企業の民営化といった厳しい要求を突きつけることになる。
 この結果、中国が内需拡大策を講じれば過熱状況にあるバブルを進展させ、放置すればそのまま低成長デフレ経済に移行するだろう。ちなみに、中国は先端技術ではいまだに外国に大きく依存している。中国製スーパーコンピューターの心臓部はインテル製だし、工作機械や半導体部品などの基幹部品は日米欧からの輸入である。このため、人民元高を克服するような高付加価値製品のハードルは極めて高い。中国企業は海外生産に乗り出し、中国の国際競争力は落ちるだろう。そうなると、中国は「おとなしい龍」になって、中国の政治体制も韓国や台湾のように徐々に民主化されていくだろう。投資に関しては、人民元は高くなるものの、中国株は長期間低迷。資源株、資源国通貨、米国株は堅調な地合いが続く可能性が高そうだ。

シナリオ2 軍事衝突から米中冷戦へ。その後は中国のソ連型国家解体も

 中国は自国のEEZ(排他的経済水域)内では他国の軍艦の航行などに事前承認が必要と主張する一方、日本や米国のEEZ内では勝手に情報収集・偵察活動を行うという二重基準を平然と行っている。また、軍は共産党の私軍であることから、政府のコントロールが効きにくいともいわれている。このため、尖閣諸島などでの偶発的な軍事衝突から、米国を巻き込んだ軍事紛争に発展する可能性も否定できない。それ自体は小規模な戦闘で収まったとしても、その後は米中冷戦となる。中国は少子高齢化による経済の弱体化もあって、対米敵対政策は致命的な失策だ。この場合、遅かれ早かれ中国共産党の一党独裁体制はソ連のように崩壊し、抑圧されてきたウイグル、チベット、内モンゴルをはじめとする少数民族自治区は中国から独立、漢民族が支配的な地域も三国志の時代のように分裂するだろう。
 このシナリオでは、日本人・日本企業が所有する中国本土や香港にある資産が没収されることもありうる。このため、人民元、中国株、国内外の中国依存度が高い企業を避けた「チャイナ・フリー」投資を考えておく必要がある。

シナリオ3 米中Cool War 続く

 中国が米国ホメ殺し作戦をのらりくらりとかわし、南北朝鮮を属国化し、アフリカ、中南米や中東の反米諸国と共闘し、ドイツをはじめとする欧州を取り込んで経済成長を続け、軍備の近代化を推し進める可能性もある。この場合、経済規模と人口で中国が米国を圧倒しているものの、外交・軍事・科学技術力では米国の優位は揺らがず、米中Cool Warが十年単位で続くことになる。このシナリオでは米ドルの基軸通貨としての優位は次第に下がるが、人民元の国際化は限定的で、相対的に漁夫の利を得るのはユーロとなるだろう。
 このシナリオなら中国は人権抑圧を続け、公害を垂れ流しながら経済規模が拡大し続けることになる。投資を考えるのであれば、資源株、ユーロ、資源国通貨、原油、プラチナ、金が効果的となるだろう。

(念のため付言すると、上記は筆者の個人的な見解であり、eワラント証券の見解ではない。)


doi-san

土居雅紹(どい まさつぐ)
eワラント証券株式会社COO。CFA協会認定証券アナリスト、証券アナリスト協会検定会員。1964年静岡県生。88年一橋大学卒業後、大和証券入社。証券アナリストとして活躍。93年米国ノースカロライナ大学経営学大学院にてMBA取得。大蔵省財政金融研究所などを経て、ゴールドマン・サックス証券へ。00年同社でeワラントを開発・導入。11年8月より現職。時代に合った投資方法を研究、その分析力には定評がある。

Scroll To Top