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実践サバイバル投資術 クラッシュに負けない運用戦略

実践サバイバル投資術 クラッシュに負けない運用戦略

 5月の株急落の直前は投資信託が飛ぶように売れていた。前回のコラムで指摘したにもかかわらず、ムクムク感に負けた方には手痛い教訓となっただろう。とはいえ、早ければ数年後、運がよくても10年以内には遥かに巨大なクラッシュが発生する可能性が高い。そこで、金融機関の窓口では決して教えてくれない「クラッシュに負けない運用戦略」を考えてみる。

資産間の相関は近年上昇!
クラッシュ時は分散投資の効果なし?

 日本株(TOPIX)と米国株(S&P500)の相関を円換算した収益率で見てみよう。過去25年の相関は0.44だったが、直近7年だけに絞るとなんと0.82に跳ね上がる。最近の状況では日本株と米国株に投資したところで、金融商品のパンフレットにあるような「リスク分散でござ~い」とはとても言えない。
 同様に他資産との過去25年と直近7年の相関を見ると、ドイツ株(0.45→0.78)、香港株(0.41→0.74)と同じように大きく上昇。また外貨も米ドル対円相場(0.12→0.60)、ユーロ(0.17→0.68)、コモディティもWTI原油(0.18→0.57)、金地金(0.11→0.26)であった(図1)。この中でみるなら、日本株と組み合わせてリスク低減に効果がありそうなのは金地金ぐらいだ。
 さらに、リーマンショックや東日本大震災のような突発的要因によるクラッシュ時には、資産間の相関はもっと上がる。簡単に言えば「全部下がる」のだ。直近7年間で1ヶ月にTOPIXが5%より下落した月だけを抽出して「クラッシュ時の相関」を計測すると、米国株0.81、ドイツ株0.74、香港株0.79、金地金0.65、WTI原油0.80、米ドル0.42、ユーロ0.69と軒並み相関が高くなる。巨大な投資ファンドが世界中の資産に投資し、各国の景気循環が同期している状況にあるため次のクラッシュにも従来の分散投資は役に立たないだろう。

クラッシュに負けない
3つのポイント、3つの運用戦略

 外国株、コモディティ、外貨でもなく、唯一「負けなし」で「理論上、相関がない」のが円建ての現預金だ。つまり、クラッシュに負けない運用戦略の基本はキャッシュポジションの管理が王道となる。キャッシュにできるだけ長く留めれば、それだけリスクが減る(ブル相場の最中は儲けは減るが、クラッシュ時のメリットの方が大きい)。
 次に、最近のクラッシュで相関が低かったものを使うことも考えられる。これらにはフロンティア市場(アフリカ株の多くやイラク株などの未整備な市場)や、多様な運用戦略を用いるヘッジファンドなどがある。ただし、フロンティア市場も中国のように次第に世界経済に組み込まれ、相関が高まることが想像される。また、ヘッジファンドは玉石混交であることに加えて各種コストが高く、それらを考慮するとリターンは相当低くなる。
 3つめのポイントは、クラッシュにどこまで耐えるか決めることだ。例えば、仮に株価が50%下がっても3年後には元に戻るとすれば、その間に換金ニーズが無いなら事前の準備は不要となる。一方、経済危機の当事国のように、多くの企業が破綻し、通貨価値が暴落して元の水準に戻らないなら対策が必要だ。さらに、東日本大震災時の上場株価指数オプションの売り建てポジションのように、理論的にありえない価格に基づいた追加証拠金の取り立てで破産に追い込まれることもある。だから、金融商品は最悪の場合の損失額が限定されているものだけにすることは鉄則といえる。
 上記の3つのポイントを考慮し、クラッシュに負けない運用戦略を考えるなら、以下のようなものになるだろう。

運用戦略を併用する

 普通に買うだけの「ロングオンリー戦略」が通用しないなら、ヘッジファンドのようなそれ以外の投資戦略を併用すればよい。コストを抑えるために自分で簡単なものを3種類ほど併用すれば、自家製マルチストラテジーファンドの出来上がり。キャッシュにしておく時間が長い戦略も組み込めばさらに安心だ。
 例えば、拙著『勝ち抜け!サバイバル投資術』で紹介しているように「暴落だけを待つ戦略」、「秋から春の半年間だけ日米株に投資するハロウィン戦略」、「上昇トレンドに乗るトレンドフォロー戦略」を同時に用いる手法は誰にでも簡単に実践できる。他に個人投資家が簡単に併用できそうなものとしては「ダウの犬戦略」、「IPO株だけ投資」、「優待銘柄を数ヶ月前に購入して、権利落ち日直前に売る」、「好成績投資信託のコバンザメ運用」、「親子上場企業のTOB狙い」などがあるだろう。

3%オプション買い戦略を使う

 これは教科書的な著作『ブラック・スワン』で有名なタレブ氏が実践していた投資戦略で、暴騰・暴落を待ち伏せする手法だ(専門的にいうとロングストラングル戦略という)。やり方は簡単で、資金の一部で相場が大きく下がると利益が出るプットと、相場が大きく上がると儲かるコールのポジションを常に両建てにする一方、資金の大部分は預貯金やMMFといった安全資産にしておくだけ。オプションの買いなので最大リスクは限定されていて、レバレッジ効果で急騰やクラッシュでは大きな利益が期待できる。投資資金の3~10%程度で上場株価指数オプションやeワラントの買いポジションを持ち続けるという、簡単ながら暴騰・暴落に極めて強い投資戦略といえる。

「価値が戻らないクラッシュ」にだけ備える

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 7年から10年程度のスパンで発生する景気循環による相場下落は「運が悪かったと諦めて、何年でも耐える」という“塩漬け開き直り投資法”だ。ただし、「数年間アテにしなくてもよいお金だけを投資に回す(安値で叩き売りをしないで済む)」、「個別株や個別企業の社債、REITには投資しない(破綻を避ける)」、「人口動態の理由で低成長となった日本、今後なりそうな国々(欧州の多く、中国、韓国)には投資しない(高値に戻らない可能性あり)」の3つは厳守だ。そうでないと、90年代のバブル崩壊後の日本株のようにいつまで経っても高値に戻らない可能性がある。
 一方、本当に備えるべき「価値が戻らないクラッシュ」としては、日本の産業基盤を大きく毀損するような大災害、隣国との軍事衝突、日本の財政破綻のような事態が考えられる。戦後数十年これに該当する事態は日本では発生していないので、前述の資産間の相関分析は全く役に立たない。ロシア、中南米、韓国などの経済危機の事例から学ぶなら、クラッシュ直後は現金・食料品・国内の農地、やや状況が改善すれば外貨と金地金、数年後に資金を回収するなら外国株・海外不動産、欧米の美術品などが効果的だろう。目先のリターンを犠牲にしてもこれらに10~20%程度の投資資金を割り振っておくことになる。
(念のため付言すると、上記は筆者の個人的な見解であり、eワラント証券の見解ではない。)


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土居雅紹(どい まさつぐ)
eワラント証券株式会社COO。CFA協会認定証券アナリスト、証券アナリスト協会検定会員。1964年静岡県生。88年一橋大学卒業後、大和証券入社。証券アナリストとして活躍。93年米国ノースカロライナ大学経営学大学院にてMBA取得。大蔵省財政金融研究所などを経て、ゴールドマン・サックス証券へ。00年同社でeワラントを開発・導入。11年8月より現職。時代に合った投資方法を研究、その分析力には定評がある。

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