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A Drive in the Clouds 雲の中でドライブ

As Time Goes By

A Drive in the Clouds 雲の中でドライブ

 朝、スイッチをONするとクルマがバージョンアップしていた。2020年頃には電気、ハイブリッド、燃料電池、ガソリン・ディーゼルと駆動システムは多々あれど、すべてのクルマがクラウド・コンピューティング環境の中で疾走しているかもしれない。
「クルマがクラウド?」と違和感を覚える向きもあるだろうが、クルマは「走る半導体」と形容されるほどで、数十個のプロセッサと数多のセンサー、多重化された車内ネットワークシステムで組み上がっている。加えて、膨大なコード量のソフトウェアで人とハードウェアを有機的につないでいる。パソコンやスマートフォンなどに用いられるOSを除き、身近な電化製品でもっともソースコード量が多いプロダクトはカーナビゲーションシステムかハードディスクレコーダーと言われるほどだ。ユーザが触れるインフォテイメント(情報と娯楽を融合したもの)機能だけでも多くのサービス・ソフトウェア群で構成されている。加えて、外部アプリケーションやデバイスに対しインタフェース提供する中間層、リアルタイム制御でヒトとクルマの安全・安心を司るハードウェアを抽象化する下位層が存在する。
 日本のお家芸かつ生命線である自動車産業であるが、近年ソフトウェアの役割が増すにつれて、気になる影が、海の向こうで見え隠れする。

スマホ・クラウド3兄弟の浸食

 スマホ・クラウド3兄弟と表現すると若干語弊がありそうだが、いつもの面々、アップル(世界株式時価総額ランキング1位、時価総額44兆円、2013年8月末現在)、グーグル(同3位28兆円)、マイクロソフト(同4位28兆円)だ。いずれの会社もスマートフォン/PC用のOS、自社ブランドのスマートフォン・携帯端末、数億人の直接顧客とそれを支えるクラウド・コンピューティング環境、ナビゲーションを初めとした自社開発のアプリ群の保有、といった共通点を持つ。10年くらい前までの経営学(舶来)では専業領域に特化し、分業・分担を是とする水平型か、あるいは自企業でバリューチェーンの川上・川下を押さえる垂直型が最適かという議論が盛んであったが、水平・垂直統合を同時に遂行できるこの3社はたびたび変則的な動きをする。
 アップルはインフォテイメントの分野でクルマ連携をすでに先行させている。iPhoneとカーナビ・オーディオといった車内機器の主従関係(主がスマートフォン)が既に逆転していることからも明らかであろう。本年6月に従来よりクルマ連携を一歩進めた「iOS in the Car」を発表した。iPhoneの音声エージェントを用いた車載機器操作やスマートフォンとのディスプレイ連携表示などカユイところに手が届く機能が追加されている。現状はクルマの表層機能に過ぎないが、着々と手を進めている。
 グーグルはすでにスマホ・PC分野での地図ナビゲーションの雄であり、カーナビゲーション分野にも進出している。また、自動運転技術を頻度高く宣伝するなど他の自動車メーカを大いに刺激している。
 出遅れていたマイクロソフトはノキアの端末部門の買収で、一気に巻き返しを図っている。ノキアが持つ、世界最大級の地図データ・アプリケーション部門(以前のナブテック社)は買収の範囲に含まれていないが、マイクロソフトのリーチは掛かったとみていいだろう。評判が芳しくなかったカーナビOSであるWindows Automotiveも実績は大きいので侮れない。上記3社は、インフォテイメント(クラウド含む)、クルマと他のデバイスをつなぐインタフェース、ブラックボックスの抽象化層に手を変え品を変え、クラウド生態系構築を進めてくる。直近のクルマ連携の小さな変化よりも、中期・長期の戦略に注目していきたい。
 3社の株式時価総額が30兆円から40兆円と莫大なところも気になるところである。手持ちキャッシュも多い。世界で名の知れた主要自動車メーカでも時価総額1兆円から2兆円「程度」の会社がゴロゴロあるので、3社が自動車メーカとタイトに組むことは容易いだろう。もしくはテスラモーターズのような西海岸系の新興メーカと連携するほうが彼らのスタイルに合うかもしれない。3社の株主からの圧力で時価総額をさらに上げることを求められれば、同じく時価総額が大きめの自動車産業の取り込みは避けては通れない。
 なお、伏兵としてはクラウド・コンピューティング分野で世界最大の企業、アマゾン・ドット・コムが存在する。コンシューマの心をつかみ、流通・物流を押さえる手腕は他の追随を許さない。メディア事業にも手を伸ばし、「自作自演」は意のままだ。技術力はグーグルやアップル、オラクルに匹敵する。CEOであるジェフ・ベゾス氏はトヨタ生産方式やカイゼンの精神を経営に組み込んできた。自動車産業から経営のヒントを見出しているだけに予想もつかない手を打ってくるかもしれない。


文:本丸達也(発行人)

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