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「40歳定年制」の真意~東京大学大学院経済学研究科・経済学部 教授 柳川範之氏~

柳川範之(やながわのりゆき)
1963年生まれ。小学校をシンガポールで卒業、高校時代をブラジルで過ごした後、大学入学資格検定試験合格。慶応義塾大学経済学部通信課程卒業。東京大学大学院経済学研究科博士課程修了。経済学博士(東京大学)。東京大学大学院経済学研究科 経済学部 教授。著書に『法と企業行動の経済分析』(日本経済新聞出版社)、『独学という道もある』(ちくまプリマー新書)、投資家水野弘道氏、プロ陸上選手為末大氏との共著『決断という技術』(日本経済新聞出版社)などがある

終身雇用という幻想

「終身雇用についてまず総括しておきましょう。ひとつの企業の中でみんなが長く働き続けることには大きなメリットを感じますし、それが日本企業の特徴でもあると思います。しかし、残念ながら現在、ひとつの企業が50年、100年単位で成長を続けることはかなり難しい。経済環境の変化は昔に比べて格段に早くなっており、個人が20代のころに学校や企業で身につけた能力が40~50年間通用することも難しくなって、多くの場合、厳しい現実が待ち受けています。
この現状を踏まえると、皆でずっと同じ企業で働こうと思っても、外部環境の変化によって職種自体が消滅することが起き得るわけです。現在の仕事を遂行するための高度なスキルを身につけていても、技術革新や海外へのアウトソーシングなどで仕事自体が失われた場合、自身に代替するスキルがなければ、ただ企業に在籍して社会保障的に給与を受け取るだけの存在になるかもしれません。日本経済が全般的に好調で、かつ財務状況に恵まれた企業に所属していれば『優雅なリタイア』も可能かもしれませんが、実際は企業も国際競争にさらされていて、すべての人を雇い続けていく余裕はないでしょう。終身雇用制と呼ばれるような長期雇用と年功賃金の組み合わせを実現できた企業は、ごく一時期のごく一部の企業に過ぎません。実際には多くの人々が正規・非正規ともに解雇や転職を経験しています。こうした現状を踏まえると、解雇されないことに神経を集中させるよりも、産業構造や外部環境の変化に適応してどのような能力を身につけるのか、一定のサイクルで自身をプラニングすることが大切かと思います」
柳川氏は、仕事全体をクリエイティブ職、事務処理職、単純労働職という3つに分類し、自動化やアウトソーシングの進展で事務処理職の仕事が減り、成熟国ではクリエイティブ職と単純労働職の二つに集約されていくだろうと予測する。既に事務処理職全体の仕事のパイが小さくなっているように、職そのものがなくなるというのは静かに進行している。

人生の長期化、変化の高速化、能力の陳腐化

産業革命により分業システムが確立した結果、ある程度の専門性を持っていれば職業人として長く活躍できるという前提があった。しかし今、大きな転換期が次々に訪れ、人生の長さと産業構造の移り変わりの尺度が合わない気がするというのが社会に生きる人の実感だろう。長い人生をお金を稼いで生きながらえるためには、何か根本的なところで人間が変化しなければならないのかもしれない。
「それがまさに40歳定年制を提言したひとつの大きなポイントなのです。幸せなことに人間の寿命は延びています。iPS細胞の開発などでさらに延びるかもしれません。しかし一方では、産業構造の変化が急速なため、技術や能力が10年から20年で陳腐化することも多々あります。昔なら若い時に身につけた能力や知識が死ぬまではある程度役に立ちました。環境が変わっても次の世代の若者に新しい技術を身につけてもらえば十分、という時代がずっと続いていました。だから企業は『終身的』雇用ができるし、個人は一度身につけた能力を磨き上げることで働き続けることができていたわけです。
ところが、寿命が延びる、スキルは陳腐化する、となるとどうでしょう。一回の充電(学び)で終着駅に向かうというのは無理で、2回か3回か、どこかの停留所で環境の変化に合わせた能力開発か何かの学び直しの充電をしないと長く働くことができないですよね。
実はこれは世界的に起きている問題です。多くの国で若年失業とある程度年をとった人の働く場所の確保が同時に問題になっているのです。環境変化に合わせた能力開発を提供できないために若年者の雇用にしわ寄せがいくという構造のため、変化に合わせた新しい能力をどのように各世代に身につけさせるかということが課題になっています。そこでどの国も『教育、教育』と言い出しているんですね。世界のあらゆる場所に共通する構造的な潮流があるのだと思います」そして、急速に少子高齢化が進む日本では、この流れがより顕著な形で現れてきているのです。


聞き手: 本丸達也(発行人) 文: 羽田祥子(編集部)

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