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其の弐 事例からO2O戦術を学ぶ

■事例2
オンオフ両メディアをつなぐ入口を示すピクシブのSNS

 他方、時代の流れに倣い、紙コミ読者をウェブの世界へうまく誘導し、ユーザから圧倒的な人気を誇るのはSNSサイト「pixiv(ピクシブ)」である。ピクシブ株式会社が運営する本サイトは、イラスト投稿に特化した独自のサービス展開で話題を集める。
 従来、テキストベースで形成されていた利用者のプロフィールを、自分で描いたイラストなどで表現しコミュニケーション手段に用いるという新しさが世界中のアニメオタク(以下アニオタ)の心をつかみ、今ではアカウント数400万、イラスト総数2450万枚、1日の投稿数2万5000枚、月間28億ページビューという驚異的な支持を集める(図2)。
 オンライン上で一大ネットワークを築き上げたピクシブだが、オフラインの紙コミなくして成り立つサービスではない。なぜなら“好きなマンガのキャラを描いて、みんなに見てもらいたい”というアニオタたちのイタい欲望こそが、本サービスの原動力だからだ。無論、アニオタの描きたいイラストというのは、ボロボロになるまで読み重ねた紙コミのキャラにほかならない。
 しかしこのピクシブ、単なる素人の自己満足サイトだと侮るなかれ。一般投稿者の描いたイラストが出版社の目に留まり、憧れのマンガ家デビューを果たした実例もあるというから、その影響力は計り知れない。その優位点を突き、多くの出版社がピクシブ上に広告を張るなど、キャンペーンの場としても活用されている。

 本サービスは基本的に無料だが、利用する上では会員登録を行う必要がある。その際に登録した年齢や性別、またサービス利用開始後にサイト内で参加したコミュニティ、閲覧したマンガ履歴などから導いたデータをもとに、次なるヒットマンガの傾向も浮き彫りになるという。実際にオンラインサービスから得たデータにより、紙コミが生み出されるケースも少なくない。ピクシブはオンオフをつなぐ、コミック界のマーケティング役も果たしていると言えよう。また、本サイト上で他人が描いたイラストのキャラから、原作となったマンガを知り、これまで自分が見なかったジャンルの作品も読むようになったというユーザの声も多い。
 ある紙コミ編集者は、ピクシブのサービスから浮かぶ、次世代コミック業界の理想像を次のように語る。
「ネット上には無数の作品情報があふれていますが、その数があまりに膨大なため、多くのユーザは流し読みにする程度です。その点、自分の趣味趣向が一目でわかるイラストは瞬時にユーザ心を捉えることが可能です。そういった意味で、ピクシブはオンオフ両コミックをつなぐ大きな役割を果たしていると言えるでしょう。ネット上で知ったマンガを書店で購読し、再びネットに戻りユーザ同士が感想を語り合うといったオンオフ両媒体の循環がうまく作用すれば、今後のコミック業界はさらなる盛り上がりを見せるでしょう」
 紙かネットか、 メディア環境の重心をどこに置くかという選択が迫られる今、コミック業界が挑むO2Oサービスは、オンオフ両メディアがうまく融合し、共存できる道を示しているのではないだろうか。


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