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【プレパラート】ノンアルコールビールで考える、少子高齢化・人口減少時代のマーケットのとらえ方

【図1】(注意1)酒類の各区分は、2010年において酒類合計に占める割合が多い上位5区分を提示。(注意2)「その他の醸造酒等」は、いわゆる第三のビールの一部。2006年の酒税法改正によりできた区分。(注意3)発泡酒は2003年の酒税法改正前まではビールよりも税率が低く抑えられていたが、同改正により税率が引き上げられた。(資料)国税庁「酒のしおり(平成24年3月)」から、筆者作成

 最近ではビールというと、まず「ノンアルコールビール」「アルコールフリー」が頭に浮かぶ方も多いのではないだろうか。ノンアルコールの代表的な存在である『キリンフリー』などは当初、飲酒運転に対する社会的批判の高まりを背景にビールの代用品として開発されたようだが、最近ではもともとアルコールをあまり飲まない若者や女性などにも支持されているようだ。また、ビールだけではなく、カクテルなどでもノンアルコールが登場し、飲食店のメニューでも目にする機会が増えた。アルコール度数の低さを売りにするものも増えている。
 このような中、旧来からのアルコール市場はどうなっているのだろうか。「若者のアルコール離れ」などという言葉も耳にするが、実際はどうなのだろうか。
 アルコールの販売数量をみると(図1)、近年、減少傾向にある。その内訳も変化しており、2000年ではビールはアルコール全体の過半数を占めていたが、2010年には3割へと減少している。また、清酒もアルコール全体の1割を超えていたが、1割を切るようになり減少している。一方でリキュールのほか、第三のビールが含まれるその他の醸造酒等は存在感を増している。なお、発泡酒は2003年の酒税法改正までは増加していたが、同法により税率が引き上げられて以降は減少に転じている。
 つまり、アルコール市場は縮小傾向にあるだけでなく、消費者の嗜好が低アルコール嗜好へと移っている様子も窺える。

【図2】(注意)飲酒習慣率は、週に3日以上飲酒し、飲酒日1日あたり1合以上を飲酒すると回答した者の割合(資料)厚生労働省「国民健康・栄養調査」から、筆者作成

 次に飲酒習慣率の変化をみると(図2)、男女とも20代では減少しているが、高年齢層では上昇している。中年層では男性は減少し、女性は横ばいである。「若者のアルコール離れ」と言われるが、実は男性ではアルコールから離れているのは若者だけではない。嗜好の変化もあるのだろうが、30~50代の就労世代で飲酒習慣率が低下していることから、金融危機以降の不況による飲酒機会の減少・消費の抑制の影響も大きいだろう。また、これらの層の飲酒量の減少が、アルコール販売数量全体の減少につながっているのだろう。
 以上より、アルコール市場の縮小要因について、①消費者の嗜好の変化(若者をはじめとしたアルコール離れや低アルコール嗜好の強まり)、②不況による消費の抑制があがるが、ノンアルコールビールの開発背景でもある③飲酒運転の罰則強化についても触れるべきだろう。いくつかの痛ましい事故などを契機に2002年と2007年に飲酒運転に関わる法改正が実施されたのだが(※)、確かに2002年と2007年の翌年の販売数量をみると、他の年より減少幅がやや大きくなっている。
 また、市場縮小要因として、特に現在よりも将来的に影響が色濃く出るものとしては、④少子高齢化の影響も取り上げねばならない。周知の通り、少子高齢化により総人口は減少し、年齢構造は高齢化していく(図3)。アルコールが飲める成人人口に注目すると、20~64歳の人口は、2030年には現在より2割減少する。一方、65歳以上の高齢人口は2割増加し、総人口の約4割を占めるようになる。アルコールは若年・中年層の消費が期待され、高齢層の大量消費は望みにくい商品であり、20~64歳の人口減少は切実な問題である。

※2002年に道路交通法にて飲酒運転の罰則強化、2007年に改正道路交通法にて罰則の厳罰化(最大懲役5年、罰金100万円)のほか、道路交通法では規定されていなかった車両提供や酒類提供、飲酒運転車両への同乗についても罰則が設けられたことによる。

【図3】(資料)国立社会保障・人口間問題研究所「日本の将来推計人口:出生中位(死亡中位推計)」および総務省「平成22年国勢調査」から、筆者作成

 ここで販売数量の減少を、例えば商品単価の上昇で補うと考えた場合、自動車や家電製品のような耐久消費財では、新機能の追加などによる大幅な価格調整を比較的実行しやすいだろう。しかし、アルコールをはじめとした飲料や食品のような消費財では、何らかの付加価値を追加したからといって、耐久消費財ほどの大幅な価格調整は難しい。従来商品を工夫するよりも、高齢層をターゲットとした商品開発に注力する方が効率が良いだろう。ノンアルコールビールは健康志向が強い高齢者とも親和性が高い。当初の狙いはビールの代用であり、必ずしも高齢層の取り込みを目的としたわけではないだろうが、結果的に市場の高齢化にも対応できるのではないだろうか。さらに、アルコールが苦手な層や妊娠中の女性など、もともとアルコール市場の対象ではなかった層にまで広がっており、結果的に新しい市場を創出している。

 少子高齢化・人口減少時代の商品市場は、人口動態の変化を的確に捉え、高齢者を効果的に取り込んでいくことが鍵である。また、人口減少により市場が縮小していく中では、新しい市場の開拓もできれば理想的である。ノンアルコールビールの在りようは、結果論ではあるが、他の商品市場の向かうべき方向性として参考になるのではないだろうか。


久我 尚子(くが・なおこ)久我 尚子(くが・なおこ)
株式会社ニッセイ基礎研究所生活研究部門研究員。株式会社NTTドコモを経て現職。専門は消費者行動、心理統計学、金融マーケティング。早稲田大学大学院(工学)・東京工業大学大学院(MOT:技術経営、学術)修士課程修了。東京工業大学大学院博士課程在籍(学術)

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