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週末だけのスモールビジネス入門『植物園ガイドツアー+αイベント企画「ONEGarden」村上裕亮さんの場合』

サラリーマン全盛の時代は終わった。「入社すれば生涯安泰」な会社はもはやどこにもない。すべての人が自ら仕事を創り出し、働きがいを見出すべきなのだ。とはいえ、いきなり独立開業するのはリスクが高すぎる。サラリーマンを続けながらスモールビジネスを始めるのが無難だろう。給与収入と事業収入の両方を得ている現代の「兼業農家」たちを訪ねた。

植物の生態を教える仕事がしたい
高校時代からの夢を31歳で実現

村上さんお手製しおり

村上さんお手製しおり

 都内の化学メーカーで技術職を務める村上裕亮さん(31歳)は、週末になると別人に変貌する。植物園のガイドツアーを企画運営するスモールビジネス「ONE Garden」の代表だ。
 ただし、資格や経験があるわけではない。高校で生物部に所属し、大学では生物学を専攻したものの大学院には進学できなかった。新卒で入社したメーカーでは農薬のパンフレット制作などを担当している。地方支店などで仕事に忙殺される傍ら、草木や花への興味は持ち続け、植生調査を趣味にしてきた。30歳を過ぎて、趣味を仕事に変えようと思ったのはなぜだろうか。
「農薬で植物を守ることもいいのですが、私は植物そのものの生態を人に教える仕事がしたいとずっと思ってきました。植物やお花が持っている癒しのパワーで人が人に対して優しくなれる世界を作れると信じています」
 高校生のような純真さで夢を語る村上さん。しかし、熱い思いはあっても起業の経験はない。何から手をつければいいのかわからなかった。
「私の場合、おぼろげなビジネスプランすら頭にありませんでした。漠然と『植物が好きだな。他の人にも教えてあげたい』と思っていただけです」
 そこで村上さんは、同じように週末を使っての起業を志すビジネスマンが集まる「週末起業フォーラム」に参加。自分がどんな強みを持っていて、それを具体的なビジネスにするにはどうすればいいのかを学んだ。
 村上さんがたどり着いたビジネスプランは植物園のガイドツアー。ただし、いきなり会社を辞めて独立するのはハイリスクすぎる。週末だけの起業で本当にニーズがあるのかを確かめたい。村上さんはガイドツアーのテストを繰り返すことにした。
 第1回は昨年9月に実施。参加費は1人500円。週末起業フォーラムを通じて出会った仲間8人が集まってくれた。
 第2回は11月。今度はヨガ講師とタイアップして、新宿御苑(東京都新宿区)での植物園ガイドツアー&「外ヨガ」という企画を立てた。参加費は1500円。客は倍増して16人だった。
 今年2月に開催した第3回は「冬の植物園を楽しむ」という番外編で、小石川後楽園(東京都文京区)での子ども向けミニ将棋大会&茶道体験というファミリー向け企画。こちらも茶道講師とのタイアップだ。参加費は3500円。これも定員15人を上回る16人の客がやって来た。
 失礼ながら、何の実績もない村上さんがどうしてこんなに客を集めることができるのだろうか。
「特別な宣伝はしていません。ホームページ、ブログ、フェイスブックで告知するぐらいです。一度来てくれた方が口コミで人を誘って来てくれています。集客に苦労はしていません」
 宣伝ではなく、来てくれた客を楽しませることに力を入れているという村上さん。例えば、第3回のミニ将棋大会では高価なプリザーブドフラワーなどを景品にしたため、利益が吹き飛んでしまったと笑う。他にも、寒い日には客全員に携帯カイロを配ったり、自分が撮り貯めた花の写真入りのしおりを渡したりと気配りは欠かさない。
 さらに、初期費用は28万円ほどかかっている。ノートパソコンや一眼レフカメラ、ガイド用のインカム(マイク)などだ。現在のところ収益は赤字である。
「まだ駆け出しの身ですからお金のことはあまり考えていません。みんなが喜んでくれればいいんです。イベントを行って、みんなの笑顔を見ると私自身も元気になります。好きな仕事をやれてみんなが笑顔になれば最高です」
 キレイ事にも聞こえるが、考えてみれば「仕事」の本質を捉えている発言だ。まず、自分が得意で大好きなことで周囲の人を助けたい、喜ばせたいと思う。実際にやってみると感謝されるし、自らの存在意義も感じる。飽きずに続けていると仕事の質も向上し、客が次第に増えていく。結果として、お金も集まるようになる。
 実際、イベントの3週間前には定員に達し、参加者の7割はリピーターだ。このテスト結果に村上さんは手ごたえを感じている。

自分ひとりのビジネスでは弱い
「組み合わせ」で魅力を増す

ツアーの後は、広場で野点やヨガの体験

ツアーの後は、広場で野点やヨガの体験

 今回のインタビュー取材でも、夢の島熱帯植物館(東京都江東区)を簡単にガイドしてくれた。率直に言って、村上さんの知識は圧倒的ではない。植物の脇に掲げられている説明文を筆者と一緒に音読することもあった。
 しかし、知ったかぶりせずに勉強しようとする姿勢にむしろ好感を持った。華やかさはないけれど誠実さと愛嬌は十二分にある村上さんの人柄を慕って来る客も多いのだろう。
 一方で、村上さんは自分のビジネスの「強さ」を客観的に見つめる冷静さも持ち合わせている。
「植物園ガイドツアーだけではイベントとして弱いと感じています。私はコラボレーションなどの企画を考えることも好きなので、ヨガや茶道の講師の方に『一緒にやろう』と声をかけました。植物園の中でヨガや茶道をしている風景が頭に浮かんだからです」
 コラボレーション相手とはメールでやりとりすることが多いが、必ず一度は直接顔を合わせることにしている。相性をお互いに確かめるためだ。ここにも村上さんのこだわりが見える。
 今年はいよいよ本格化する。月に1、2回のペースでイベントを開催する予定だ。参加者20人、参加費3000円で計算すると、単純計算で6万円の売り上げとなる。初期投資は済んでいるので、経費を差し引いても5万円ほどは利益になるだろう。仮に毎週実施したら月々20万円を得られる。もはや「副収入」とは呼べない金額だ。
 当然のことながら本業との両立も大変になる。現状でも、村上さんは毎朝5時に起床し自宅を出るまでの2時間ほどは「ONEGarden」に費やしている。メール返信、イベントの企画書作成、植物の写真に名前や説明文をつけていく作業など。週末はイベントを開催したり人と会ったりなどが多いため事務作業は進まないのだ。
「会社の残業も遅いときは23時までのこともあります。でも、たいていは早めに切り上げます。飲み会はほとんど出ません。ダラダラ働いて愚痴を言うことも少なくなりました」
 30代の村上さんは、会社の仕事もある程度コントロールできる立場にあるため、急な休日出勤で「ONEGarden」のイベントをキャンセルすることもない。本業をきっちりこなすことも重要なのだ。
 ただし、副業をやっていることを会社に報告はしていない。実名も顔も公表しているので黙認状態なのだろう。
「報告してもおそらく許されないでしょう。いずれ会社と交渉する覚悟はできています。悪いことをしているわけではありませんから」
 いったん肝が据われば、もはや「本業」と「副業」の境はあいまいになる。二つとも大事な仕事だ。そして、収入は確実に上がる。
「会社員の給料というベースがあって、スモールビジネスでのボーナスもある。生活が豊かになります。みんなも是非やってほしいと思います。自分が大好きなことを素直にビジネスにすればいいだけ。難しいことではないはずです」
 いま、村上さんには二段階の夢がある。一つは、今年中の目標。このスモールビジネスの収益だけで40万円貯め、今年末には「ONE Garden」を株式会社化したい。もう一つは、「夢」と呼ぶにふさわしい大きな目標だ。
「自分自身で植物園を作りたいと思っています。単に植物を眺めるだけでなく、園内でセミナーやゲームなどをする能動的な植物園です。訪れた人みんなを元気にするような場所を作りますよ」
 にこやかに話しながらも目は真剣な村上さん。自らの植物園で客を迎える姿を違和感なく想像できる。思わず協力したくなる夢なのだ。


村上裕亮 (むらかみひろあき)村上裕亮 (むらかみひろあき)
日本自然科学写真協会(SSP)正会員。
花と植物の研究者植物園の紹介サイト www.onegarden.biz

文|大宮冬洋

大宮冬洋Blog 「実験君」の食生活 syokulife.exblog.jp
取材協力:週末起業フォーラム www.shumatsu.net

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