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ビジネス/business
経済
ある「ニュータイプ・エリート」の海外移住 弁理士 竹下敦也氏の場合
ある「ニュータイプ・エリート」の海外移住 弁理士 竹下敦也氏の場合
仕事探しときっかけ

勤務先の中庭に立つ竹下氏
地球に生まれたからには一度くらい海外での仕事や生活を経験したいという思いはあったが、留学や海外勤務の経験はなかった。転機が訪れたのは30代半ばだ。ヘッドハントの誘いにどう対応するか、今後のキャリアをどう積むべきか、米国勤務経験の豊富な先輩に相談した。相談の後、先輩から「フランスに良い事務所を知ってるよ」との話題が出た。欧州の特許審査官の質が高いことは以前から知っていた。日本からの技術移転の成功事例も多い。
ホームページを発見したが、英語ページに求人情報はなかった。フランス語ページを見ると求人情報が多数あり、その中に「Japonais」の単語が。テキストを自動翻訳したところ「日本語ができる技術者募集、望ましくは弁理士」ということらしかった。まさに自分のための求人だった。一言一句英文表現をチェックしながら、履歴書と志望動機書を作成し、応募書類一式を送った。
1週間後、電話面接を受けた。クリアな英語にホッとした。電話の最後に「こちらで航空券と宿を手配するので面接に来てください」とのオファーが。休暇を工面し、1週間パリに行くことになった。
渡航直前に高熱を出し、解熱剤を服用しながらのパリ滞在となった。面接では無我夢中で自己紹介と志望動機を話したような気がする。振り返ると、エンジニアとしてのプロジェクトマネジメント経験や商社での経験が評価されたのかと思う。日本に戻り、電話による細かい条件調整後、事務所側のサインが入った契約書が2部到着。全ページにサインをして1部を返送し、契約が無事成立した。
ビザの手続きに初めて外国生活を肌身に感じた。3カ月待ってようやく在日フランス大使館へ。条件違いによるビザの再申請となり、さらに待つことになった。書類不備、状況確認など、計6回大使館に通った。これはその後のフランスでの手続きの良い練習にもなった気がする。ビザが発給されたのは最初の申請から4カ月半後のことだ。
いよいよ、パリへ

凱旋門
元日のフライトで厳冬のパリに向かった。短期滞在用の仮宿に向かうが、教えられていた住所が違っていた。携帯電話がなく、公衆電話のコインもなく、カードも使えず、元日なので店も開いていない。道行く人に携帯電話を借り、ようやく22㎡のアパートにたどり着いた。大家さんにもらった熱いコーヒーの味が忘れられない。
滞在許可証の取得のために警察署に4度足を運んだ。その後、銀行口座開設、念願の携帯電話取得、住まい探し。いずれも多くの書類と手間を必要とした。
オフィスの職員は8割がフランス人で2割の国籍は多様だ。こちらが質問をすると常に明快、簡潔な答えが返ってくる。質問が不明瞭な場合にはすぐに逆質問される。理解力、説明力、コミュニケーション能力が高い人間が多いように感じる。
自分の仕事のコアは欧州特許の権利化の仕事だ。日本企業のために仕事をするのは大和魂が燃える。出願を受け取るとき、技術の魂が届いたような気になる。日本国弁理士の資格ではサインすることができないが、自分が出願・拒絶理由対応などドラフトを仕上げ、欧州特許弁理士の確認を経てそのサインで欧州特許庁に電子申請される。
欧州での仕事の醍醐味の一つは複数の国をまたぐ訴訟の仕事だ。権利化の手続きは欧州特許の存在でかなり統一が進む一方、権利化後の特許訴訟は各国ごとに独立して行われるため、作戦を立てて行う必要がある。
あれから3年
日本が震災から復興する過程の中でも、知的財産が貢献できることが必ずあると信じる。技術の進歩が地球上を光の速さで駆け巡る時代である。欧州を含む海外における知的財産の重要性が高まっているのも間違いない。日本の経済力、国力があって、フランスでの自分がある。「和僑」という言葉もある。ここで日本のためになる前線基地のような存在であり続けたいと常に思う。
フランスに来て3年が経った。朝起きるとスマートフォンには日本からのメールがたまっており、通勤中にオフィスでの優先順位を付ける。カフェでクロワッサンとエスプレッソの朝食をとり、店の主人と少しフランス語で挨拶を交わすと、自分もパリジャンの片割れという錯覚に陥る。
ようやく仕事に慣れ、生活も落ち着いてきた。気付けば滞在許可証の更新を迎え、また役所に4度通ったが、今度は淡々と対応し無事更新に至った。この街で生活するという冒険はまだまだ続きそうである。
弁理士 竹下敦也(たけしたあつや)
CABINET PLASSERAUD(キャビネ・プラスロー)所属
東京三菱銀行(中小企業融資)、NASA/JAXA国際宇宙ステーション開発(エンジニアJAMSS所属)、三菱商事(宇宙航空機本部)、科学技術振興機構(大学の海外特許出願・技術移転)を経て2009年より現職。技術と事業の両面を理解する弁理士として、日本顧客サービスグループを設立し、日本企業の欧州での知的財産全般の権利化・訴訟を支援している。日本国弁理士。1996年東京大学工学部航空宇宙工学科卒、私立灘高校出身。
文|羽田祥子 川口奈津子(編集部)
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