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【近憂遠慮】インドネシアと日本の「デファクト・アライアンス」 ―「誠実」な国民性が結ぶ固い絆

今、インドネシア市場に世界が注目している。
日本にとって、インドネシアとはどのような国なのか。
同国を最もよく知る日本人、国立大学法人政策研究大学院大学学長 白石隆氏が現在のインドネシアを解き明かす。

ポスト・スハルトが築いた
「安定」への道

ジャカルタ市内には近代的なオフィスビルやマンションが林立。真新しい乗用車や二輪車が一日中道路にあふれ、経済成長に伴う中間層の所得の伸びを実感させる。渋滞解消のためにバス専用レーンを道路中央に作るなど工夫はしているが、移動所要時間は常に不確定だ

ジャカルタ市内には近代的なオフィスビルやマンションが林立。真新しい乗用車や二輪車が一日中道路にあふれ、経済成長に伴う中間層の所得の伸びを実感させる。渋滞解消のためにバス専用レーンを道路中央に作るなど工夫はしているが、移動所要時間は常に不確定だ

 東ティモール紛争、アチェでの分離独立をめぐる内戦、97~98年の東アジア経済危機により各地で発生した暴動、繰り返されるテロと短命政権――報道を通じて目にする不安定で危うい国。そう遠くない記憶にある、インドネシアのイメージだ。
 ところがここに来て、世界が熱い期待を寄せ始めた。豊富な天然資源に加え、人口は約2億4千万人(世界第4位)。GDPは2011年に3000ドルを超え、5000ドル超えも時間の問題と言われるほどの急成長を遂げている(一人当たり名目GDP3469.27ドル―IMF:WorldEconomicOutlook 2011.9)。
 インドネシアはいかにして混乱から脱却し、安定した成長国として変貌を遂げたのか。
「スハルト体制の崩壊後、非常にラディカル(抜本的)な民主化と地方分権が進められました。権限と人を地方へ移し、公務員は7割近くが地方へ異動しました。その結果、非常に面白い事が起こりました。インドネシアは多民族国家で、人口が200万人以上いる民族だけでも15以上存在します。宗教的にも多様であるため、民族浄化・テロのような紛争の火種を常に抱え、政治的には致命傷になりかねません。そこで少数民族でも自分たちの地方自治体を作れるようにし、彼らに多くの権限を与えました。全部で400以上の自治体がありますが、イスラム法を適用しているところも20くらいあります。これにより、民族や宗教の問題は、地方レベルで解決できるようになりました。つまり、中央政府は、インドネシアの統一維持、安全保障、マクロ経済という重要な分野に注力できるようになったのです」。
 東アジア経済危機によりスハルト政権が崩壊した後、短命政権が続いたインドネシア。だが白石氏は、この期間にこそ現在の安定国家への礎が築かれたと説く。
「短命政権でしたが、3人の大統領はやるべき宿題を確実にやり遂げました。民主化と地方分権はハビビ氏、マクロ経済の安定はメガワティ氏、そして現在のユドヨノ氏は、これらの成果の上で統一維持や安全保障について策を尽くし、2期目の現在、マクロ経済の安定とインフラ整備、雇用の創出と、経済政策に全精力を注いでいます」。
 政権への支持率は経済成長のパフォーマンスで決まる。実に明快だ。

インドネシア市場の
ポテンシャル

 インドネシア市場の魅力、それは膨らみ続ける国内需要にある。一人当たり名目GDP3000ドルという数字は、自動車や家電などの耐久消費財が浸透し始め、経済成長が一気に加速するメルクマールと言われるが、これをクリアしたインドネシアは、今後10年間は安定的に成長するだろうと白石氏は見る。購買力の旺盛な中産階級が増加しており、これをターゲットに進出する日本企業はますます増えていくだろう。
 だが、白石氏は満足しない。日本はもっと視野を広げるべきだと忠告する。
「日本人は、インドネシアでのビジネスというと、いまだに自動車や二輪車をはじめとした製造業種に限定しがちです。これはとても残念なことです。例えば現地の人々の移動手段を考えてみましょう。インドネシアは多島国家であり、従来は地方から首都ジャカルタへ行こうとすると、バスとフェリーボートを乗り継ぐしかなく、人々は何日間か費やして往来していました。ところが最近LCC(格安航空)が就航し、飛行機で移動する人々が急増しています。今後、インドネシアの航空市場は爆発的に拡大するはずです。そして乗客の多くがジャカルタに行くことで、観光業や小売業といった市場も一層拡大していきます。このように、製造業だけでなく、他にも伸びている分野がたくさんあります。だからこそ日本の企業がもっと貪欲に市場を開拓してほしい」。


国立大学法人政策研究大学院大学学長
白石隆氏

1950年、愛媛県生まれ。東京大学教養学部教養学科卒業コーネル大学Ph.D.東京大学教養学部助教授、コーネル大学教授、京都大学東南アジア研究センター教授を経て、現在、国立大学法人政策研究大学院大学学長。アジア経済研究所(JETROの附置研究機関)所長。主著『AnAgeIn Motion』(CornellUniversityPress,1990年大平正芳記念賞受賞)『インドネシア—国家と政治』(リブロポート1991年、サントリー学芸賞受賞。新版NTT出版1996年)『海の帝国アジアをどう考えるか』(中公新書2000年、第1回読売・吉野作造賞受賞)

文:加藤紀子(編集部)

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