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アニメビジネスの将来性

“日本アニメの祖”手塚治虫さんが遺した多くの名作たち。これらマンガの優れたストーリーが日本のアニメを支えている。写真は東京国際アニメフェア2007(Photo:ロイター/アフロ)

“日本アニメの祖”手塚治虫さんが遺した多くの名作たち。これらマンガの優れたストーリーが日本のアニメを支えている。写真は東京国際アニメフェア2007(Photo:ロイター/アフロ)

日本アニメが中国に
追い抜かれる日

 経済産業省の試算によると、世界における日本製アニメのシェアは60%。
「感覚的にもそのくらいあると思いますよ。むしろ、海外勢が4割もあるかな、よく頑張っているな、と思います。中国、韓国が相当作っているのでしょう」(阿久津氏)
 日本動画協会によると、中国のアニメ制作分数(ほとんどがテレビアニメと思われる。放映されない場合も含む)は、日本のテレビアニメの、CMを除いた正味の制作分数を07年あたりから超えている。量では中国に抜かれてしまったわけだ。
「中国、韓国は日本の下請としてアニメーションを作ってきましたが、『原画は手作業だから、絶対に日本のアニメーターの画をマネできない。だから、中国、韓国は日本に追いつけない』と、日本のアニメ関係者はみんな思っています。でも僕は、賛成しがたい。というのも、画の描き方が違うんです。日本の画はデフォルメもあり、丸っこい。曲線が多いんです。韓国はオリジナルで書かせると、直線が多い。アメリカのディズニーなどは、よく下請で韓国に発注していました。北米では韓国の画は受け入れられているんですね。一方、日本のアニメ関係者は、中国、韓国の画は大陸的だと言って、あまり評価していない。
 でも、文化なんて儚いもので、あるターニング・ポイントを過ぎた時、日本の画より中国や韓国の画の方がいい、と言われるようになるかもしれない。それ以前に、中国はあれだけ人口の多い国ですから、日本風の画を描ける人が出てくるかもしれない」(阿久津氏)
 量だけでなく画に関しても、中国に抜かれる日はそう遠くないらしい。では、企画についてはどうか。
「たしかに、中国アニメで一番弱いところは企画だと言われています。どうしたら人々が喜んで観てくれるのか、人々が喜ぶストーリーの中にどうやってテーマを盛り込んでいくのか、そうした企画、アイデアというものは、文化的な伝統抜きには語れないものです。日本は、戦争はありましたが、比較的自由な文化が育っています。源氏物語までさかのぼれるような日本固有の文化的伝統は、そう簡単にマネできない。中国には非常に優れた長い文化がありますが、社会主義体制下での文化や教育の変革によって、今は文化的伝統に断絶があるように見えます。
 ただ、企画に関しては、日本よりアメリカの方が上です。たとえば映画を作るときの彼らの考え方は、すごいですよ。どうすれば受けるかをみんなで考えて、シナリオを何度も書き直し、それでも満足せずに最後の編集の時点で差し替えたり。撮り直しだってします。彼らは、商業作品として売れるためにはどうしたらよいのかを、とことん追求するわけです。それは日本人にはマネできない。それでも、もともと日本人は商売が好きだから、一生懸命やってきて、そのおかげで今こういった位置にいられるわけです。中国人も商売上手ですからね、これからわかってくると思いますよ。あと、アメリカなど海外に出た中国人もいますからね、彼らが戻った時が怖いですよ。いずれ、中国は強大なライバルになると思います」(阿久津氏)
 おやおや、日本製アニメが中国製アニメに抜かれる日が、今にも来そうな雰囲気ではないか。ただ、中国製アニメには、致命的な欠陥がある。面白くないのだ。

日本のアニメを支える
“マンガ・アーカイブ”

「中国には大人向けのアニメはほとんどありません。あっても『三国志』や『項羽と劉邦』になってしまう。表現規制のせいでしょうね。だから大半は子供向けです。これがまたちっとも面白くない、制作分数では日本を超えているというのに。アニメは子供のものだとナメているからでしょう。まあ、世界的にそうなのですが。コミック・アニメは子供のもの、という世界の常識をぶち破ったのが、日本のマンガとアニメです。
 なぜ日本のアニメが面白いかというと答えは簡単で、マンガがあるからです。アニメというのは昔『漫画映画』と言われていました。アメリカでも日本でも、最初にアニメを作った人はマンガ家です。むしろ、アニメを作れなかったからマンガを描いたのではないでしょうか。アルタミラの洞窟にはいろんな動物の壁画がありますが、どれも動きを感じさせる画ですよね。旧石器時代に、もしアニメを作る装置があれば、アニメを作っていたんじゃないかな。マンガ家も、本質的にそういうところがあるのです。
 というわけで、日本のアニメの原点はマンガにある。ところが、中国にはマンガがない。マンガという文化がないのです。むしろ、日本のマンガ文化が、世界的に見ても突出している。出版物の中でマンガが占める割合が圧倒的に多いのです。売上が落ちたとはいえ、それでも5千億くらい。講談社、集英社といった大手出版社のマンガの売上は、それぞれ1500億くらいはある。アメリカも出版大国ですけれども、コミックが占める割合はとても小さい。マーベルコミックスという出版社があって、こことDCコミックスが2大コミック出版社と言われています。ちなみに、アメリカの総合出版社はコミックを出していません。マーベルコミックスは、スパイダーマンや超人ハルクを出していますが、それでもコミックの売上は200億とか300億くらいしかないんです。日本のマンガの規模は圧倒的なんですね。
 テレビドラマでも何でも、面白さの本質はストーリーにあります。日本のアニメは、マンガという名のアーカイブから、優れたストーリーを選び放題なんです。それなら、売れた物をアニメ化するのが一番確実。日本のマンガには、100万部売れて、シリーズ累計1億部といったメガヒットがごろごろしています。こち亀、ワンピース、スラムダンク、ドラゴンボール。1億部といえば、聖書、ハリー・ポッター、そういうレベル。それくらいのレベルの物の上澄みをアニメにしているわけです。面白くないわけがないでしょう」(増田氏)
 マンガ文化のない中国が面白いアニメを作れる日が来るとしても、だいぶ先のようだ。日本製アニメの優位はまだまだ揺らがない。駄目押しをしておこう。

“妄想大国〟ニッポン”

「アメリカのアニメを観ていて、動きが変だと思いませんか? 普通、人間はああいう動きはしないだろう、と言いたくなるような、軟体動物のような動きをしますよね。一方、日本のアニメというのは、カクカクカクと動く。実はこれも手塚(治虫)先生が始められたのですが、通常フィルムは1秒間24コマです。『24コマ作ると金がかかるじゃないか、3コマ同じ画にしてしまえ』と手塚先生は考えた(笑)」(阿久津氏)
 この〝3コマ撮り〟以外にも、「なにかを見ているキャラクターの顔のアップなど、動かさなくてもそうおかしくないものは、トメ画にしてしまい、動画一枚ですむようにする」、「人物が腕をふりあげる、といった場合、本来は全身を動かすのだが、顔とからだはトメにし、腕だけを部分的に動かす」(カギカッコ部分は山本暎一『虫プロ興亡記』新潮社1989年より引用)といった手法が製作現場で編み出された。
「経済的制約の中で開発された省略的表現が洗練されていくうちに、評価されるようになったのです。『トメで見せる場面が歌舞伎の見栄のようだ』とか、『3コマ撮りの動きがスピード感を醸し出す』とか」(増田氏)
「考えてみれば、歌舞伎の動きだってカクカクしているでしょう。でも、日本人はそれを見て不自然だと思わない。日本のマンガやアニメの特徴と言われるデフォルメも、元は浮世絵です。映像表現でも、歌舞伎や能の技法を無意識に使っているんですよ。これが日本の芸術の伝統なんだと思います。
 2次元コンプレックスという言葉があります。平面の画しか愛せないことを指すのですが、リアルな相手とうまく恋愛ができなくて、マンガやアニメの中の架空の人物には恋愛感情が持てるというオタクの子たちがいるのです。それは極端な例かもしれないけれど、日本人は2次元のものに親近感を感じる傾向にあるんじゃないでしょうか。日本人は妄想の中で生きたいんです。リアルな画よりも、誇張を加えた〝浮世絵〟なんですよ。
 海外で日本のアニメやマンガの市場を形成していったのは、海外のオタクの人たち。彼らはいち早く妄想の中に入ったわけです。だから日本のアニメのシェアを拡大するためには、日本の妄想をもっと世界に広めればいい。世界中の人を妄想の中でしか生きていけないようにしてあげるんです(笑)」(阿久津氏)
 妄想の力を借りれば、日本国民がアニメで食べていく日も夢ではないかもしれない。


増田弘道氏増田弘道氏
キティレコード、アニメ制作会社マッドハウス代表取締役などを経て、現在アニメ配信をメインとするケータイサイト運営会社・株式会社フロントメディア取締役、映画専門大学院大学客員教授。
増田弘道著『アニメビジネスがわかる』(NTT出版)
阿久津幸宏氏阿久津幸宏氏
アニメディア編集長、劇場用アニメ『ビーストウォーズ』などのプロデューサーを経て、現在ゲームソフト企画開発会社・株式会社ガイア取締役プロデューサー、東京工芸大学芸術学部マンガ学科「マンガ・プロデュース論」講師。

文:渡辺麻実

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