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アニメビジネスの海外展開

海外で行われるコスプレ大会でも日本アニメのキャラクターは大人気。『セーラームーン』の衣装に身を包む女性(写真は2009年6月にシドニーで行われたコスプレ世界大会)。 (Photo:Getty Images/アフロ)

海外で行われるコスプレ大会でも日本アニメのキャラクターは大人気。『セーラームーン』の衣装に身を包む女性(写真は2009年6月にシドニーで行われたコスプレ世界大会)。 (Photo:Getty Images/アフロ)

収益構造が異なる
アメリカとヨーロッパ

 我が国の少子化の流れは避けられないらしい。それでもアニメビジネスの市場規模を大きくしようとするならば、海外市場に目を向けるしかない。市場として大きいのは北米だ。
「もともとはテレビ放映のための映像販売だけでした。ですが、ビデオグラムやその他の商品化権も同時に売った方が、国内と同じ構図が作れて収益が大きくなるため、日本の権利者はセットでセールスを行うようになりました。買い手である代理店としても、セットで買った方がアニメビジネスを展開でき、収益も大きくなることから、このスキームが一般化したのです。代理店は、日本の権利者から包括的にサブライセンスを行う権利を買い、北米であれば北米内でサブライセンス販売を行います。テレビ局、ビデオグラム販売会社、玩具・キャラクター商品メーカーなどの個々の企業に対して、放映権・ビデオグラム販売権・商品化権等の販売を行うのです。
 そのうち、北米のテレビ局も日本のテレビ局と同じように、ロイヤリティ収入の増大に対する放送の影響力の大きさに気づきます。放映権を安く買って、あわよくばロイヤリティ収入まで要求しようというわけです。最近では、北米に持ち込まれるアニメ作品数が供給過剰で買い手市場となり、このため日本の権利者も不利な条件を強いられるケースが多いようです」(阿久津氏)
「安くていいからまとめて売っちゃえ」では、足元を見られるのは当然だ。一方ヨーロッパでは、今のところ買い叩かれていないらしい。
「言語がいろいろだから、翻訳さえすれば売り先がいっぱいあるわけです。北米だとアメリカ・カナダで1本。1本いくらで、となると、人口に対してはるかに売り単価は安くなってしまいます。ですが、ヨーロッパでは、フランス、イタリア、スペイン、ドイツ、と個別に売っていけるから、北米に比べると単価が高くなる傾向にあると言えるでしょう」(阿久津氏)
 もちろん、未知数ながらアジア市場も無視できない。

これが“なんちゃって制服”

これが“なんちゃって制服”

良いコンテンツを提供すれば
まだ受け入れられる

 ところが、日本貿易振興機構(ジェトロ)によると、アメリカにおける日本製アニメソフト(DVD・VHS)市場規模は、2002年の4・15億ドルをピークに07年には3・16億ドルまで減少した(ワウマックス・メディアがニールセンビデオスキャンを基礎に推定)。頼みの海外市場も縮小しているのだろうか。
「ポケモンや遊戯王のブームが去ったという程度の話で、海外のアニメ市場がシュリンクしているとは思いません。日本のアニメやコミックが海外に進出していった歴史を振り返ってみると、ドラゴンボールとポケモンが先兵になり、ようやく門戸が開かれてみんなが普通に日本のアニメを受け入れるようになった、まだそういう段階なんです。何しろ、30年くらい前のアメリカ人は、日本のアニメの画を見て『眼が異様で病気の子どもみたいだ』などと言っていたんです。日本のアニメはデフォルメされていますからね。アメリカのコミックは、全体的なバランスも、顔のデッサンもリアルなんです。
 ですから、良いコンテンツを提供すれば、まだまだ受け入れられるはずです」(阿久津氏)
 大丈夫、日本のアニメは世界の人気者なのだ。
「日本動画協会が実施したアンケートによると、日本のアニメは世界約130カ国で放映されています。NARUTOはおそらくそのレベルに達していると思われ、現在世界で最も放映されている作品のひとつではないかと思われます。ちなみに、あのポケモンでさえ63カ国。もちろん、ポケモンがあってのNARUTOだとは思いますが」(増田氏)

「カワイイ大使」(左端が青木美沙子さん、右端が木村優さん)と一緒に記念撮影 (撮影:櫻井孝昌氏)

「カワイイ大使」(左端が青木美沙子さん、右端が木村優さん)と一緒に記念撮影 (撮影:櫻井孝昌氏)

崩れ始めた
既存のビジネスモデル

 この7月にフランス・パリで開催された第10回ジャパンエキスポの入場者数は、前年より3万人増え、16万4千人。
「空調が効かないほどの盛況ぶりでした。今年の特徴は、マンガ・アニメがメインであるのは変わりないのに、コスプレーヤーが激減したこと。去年までは、涼宮ハルヒなんかになりきった子たちがたくさんいたんですけどね。今年は、BABY,THE STARS SHINE BRIGHTのようなスウィートなロリータファッションや、〝なんちゃって制服〟を着てネクタイをゆるく結んでいるような子が多かったですね」(コンテンツメディアプロデューサー・櫻井孝昌氏)
 話の展開の早さについて来られないビジネスパーソンのために解説しておこう。パリのアニメファンは、アニメの主人公の真似をするレベルを卒業して、日本のアニメをテキストとしながらも、そこから一歩先に進んで、自分の個性をファッションで追求する、そういうレベルに突入している。日本のアニメをきっかけに、ファッションなどの日本の文化が完全に、彼らの生活に、彼らの価値観に入り込んでいると言えるのではないだろうか。
 だが、そこまで日本のアニメに取り込まれている彼らが観ているのは、必ずしも正規の映像ではない。インターネット上に違法にアップロードされた映像や海賊版のDVDだ。
「だからDVDが売れなくなったと言われています。海賊版と聞いてみなさんがピンとくる中国だけじゃないんです。ヨーロッパでも、例えばイタリアはほとんど海賊版です。もともと海外のアニメファンは、日本のDVDは値段が高い、と言っています。安い方に流れるのは当然でしょう」(増田氏)
 こうして、昨年くらいから、DVDなどのロイヤリティで制作費を回収するというビジネスモデルが崩れ始めている。危惧した日本動画協会は映像確認実証実験を行った。
「フィンガープリントという画面の指紋みたいなものがありまして、それを本家のデータから採って、ネット上の映像を調べたんです。とりあえずパスワードがなく自由に入れるところだけ調べたところ、その80%くらいはYouTubeだったのですが、ガンダムは1話あたり800万回くらい違法に再生されていました。ニコニコ動画のような認証がないと入れないところや、中国のサイトを含まずに800万回だから、実際にはとんでもない回数、再生されているでしょう。これを全部防ごうと思ったら、ディズニーのように100億、200億円の訴訟費用をかける気迫と体力がないと、無理ですよ」(増田氏)
 そこまではできない。それならどうするか。まず、海外のアニメオタクの実態を知ろう。

“生き残り”と“海賊”の間で

「彼らは、すぐ観たいんです。できれば、日本で放映されているのと同時に観たいと思っている。でも、正規のDVDの発売を待っていたら1年とか2年かかる。だから、違法なものに手を出すんです」(クランチロール株式会社・代表取締役社長・ビンセント・ショーティノ氏)
 それなら早く観せればいいだろう、と考えたのがクランチロール社だ。月7ドルを払った会員は現在15タイトルを、日本のテレビで放映されてから1時間以内に英語字幕付きで観ることができる。アニメニュースネットワークによれば、同社のサービス提供前と比べると、NARUTOの違法ダウンロードが74%減った。
 同社は、日本のアニメを中心とするアジアのコンテンツを世界に配信するベンチャー企業だ。有料配信のほか広告付きの無料配信、ダウンロード販売、グッズ販売など、さまざまなインターネット上の収益モデルを権利者に提供している。同時に、著作権対策を効率的に行うツールを独自に開発し、権利者に提供している。
 同社の始まりは、3人のアジア系アメリカ人が趣味で運営していたファンコミュニティサイト。3人とも、カリフォルニア大学バークレー校でコンピュータサイエンスを専攻し、日本のアニメの大ファンだった。あっという間に人気サイトに成長したため、資金提供を受け、ビジネス化を決断する。
 だから、高い技術力とアニメへの愛情を兼ね備え、ハード・ソフト両面ともに申し分ないはず。しかし、日本の権利者が諸手をあげて同社を歓迎しているとは言いがたい。元〝海賊〟だからだ。同社は今年1月ライセンスを得ていないサイト内の投稿動画すべてを削除し、以後、正規の動画のみのサイトとなったが、それまではYouTubeなどと同様、違法動画を受け入れていた。
 だが、日本のアニメの人気がいつまで続くかわからない。今、行動に出なければ間に合わないかもしれない。とすれば、彼らを利用しない手はない。海賊ドレーク船長にサーの称号を与えた、エリザベス1世の例もあることだし。


増田弘道氏増田弘道氏
キティレコード、アニメ制作会社マッドハウス代表取締役などを経て、現在アニメ配信をメインとするケータイサイト運営会社・株式会社フロントメディア取締役、映画専門大学院大学客員教授。
増田弘道著『アニメビジネスがわかる』(NTT出版)
阿久津幸宏氏阿久津幸宏氏
アニメディア編集長、劇場用アニメ『ビーストウォーズ』などのプロデューサーを経て、現在ゲームソフト企画開発会社・株式会社ガイア取締役プロデューサー、東京工芸大学芸術学部マンガ学科「マンガ・プロデュース論」講師。
櫻井孝昌著『アニメ文化外交』 (ちくま新書) ミャンマー、サウジアラビア、イタリア、スペイン…。作品タイトルを聞くだけで悲鳴をあげ、人気アニメのエンディングの振り付けをマスターする海外のファンたち。日本のアニメは、想像を超えて世界に広がっている。本書では、日本のアニメが世界でどう愛され、憧れの的になっているかを、現地の声で再現。また、このアニメ文化を外交ツールとして積極的に活用する意義を論じ、加えてそのための戦略をも提示する。櫻井孝昌著『アニメ文化外交』 (ちくま新書)
ミャンマー、サウジアラビア、イタリア、スペイン…。作品タイトルを聞くだけで悲鳴をあげ、人気アニメのエンディングの振り付けをマスターする海外のファンたち。日本のアニメは、想像を超えて世界に広がっている。本書では、日本のアニメが世界でどう愛され、憧れの的になっているかを、現地の声で再現。また、このアニメ文化を外交ツールとして積極的に活用する意義を論じ、加えてそのための戦略をも提示する。

文:渡辺麻実

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