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アニメーションを取り巻く環境を知る

アニメーターの収入

国立メディア芸術総合センター

 昨年夏までのまだ景気が良かった頃、メディアでは盛んにアニメーターの労働環境の劣悪さが報じられていた。だが、実態は異なる。
 アニメーターのキャリアの典型は、動画→原画→作画監督→キャラクターデザイン→監督というものだが、キャラクターデザインをこなすクラスともなれば、年収2000万を超える人もいるという。監督については、例えば宮崎駿監督の収入がどのくらいかを想像してみればいい。
「報道されている低収入のアニメーターは、おそらく動画クラスの話でしょう。アニメーターはフリーランスが圧倒的多数です。1枚いくらという計算で仕事を請け負う職人なんです。ただ職人といっても、動画は、原画と原画の間をつなぐ画を描く仕事。例えば、球を投げるポーズがありますよね。投げ始めと途中と最後のフォロースルー、これは原画担当が描くんですよ。1枚目、5枚目、8枚目みたいな感じなんですが、残りの2、3、4、6、7枚目を描くのが動画です。さほどクリエイティブ度が要求されないので、単価が安い。そのため、現在、ほとんどが中国、韓国に下請に出され、一部の大手制作会社が人材育成の観点から動画の仕事を残しているに過ぎません。そのうえ、ある程度の生産性とスキルがあれば、1年くらいで次の原画へとキャリアアップしていきます。原画であれば、よほど描くのが遅くなければ食べていけます。とはいえ、年を取ると体力はなくなるし、描くのも遅くなるしで大変ですが、それはアニメーターに限らず、フリーで働く人共通の悩みでしょう」(増田氏)

“日本アニメーション株式会社”

アニメビジネスの構造/日本の有名企業の2009年3月期連結決算・売上高

 収入に問題がないとしたら、徹夜続きなどの労働時間の長さはどうなのだろうか。
「アニメーターという人種は、あまりしたくない100万円の仕事と、50万円だけど好きな仕事のふたつがあれば、ためらいもなく後者を選ぶんです。経済合理性という観点は薄い。そういう人たちですから、画を描くのが好きで熱中する余りスケジュールが押し、ついつい徹夜になるだけのこと」(増田氏)
 好きなことを仕事にしているとしても、制作会社からの締め付けが厳しいのでは?
「そんなことはないでしょう。仕事はたくさんあるので、スキルのあるアニメーターであれば仕事を選べます。要するに自由度の高い業種なのです。仕事は人的ネットワーク経由で来ます。アニメーター仲間から話が来たり、監督から直接来たり、制作会社から依頼があったり。大きな枠組としては、大手の制作会社が元請となり、中小が下請となり、そこからアニメーター個人や、マンションの一室にアニメーターが2、3人いるような作画スタジオに仕事が行く、という流れですが、そうした縦の関係だけではなく、制作会社同士の横の交流も日常的にあります。『20カット頼まれたけど、できないから10カットやって』とか。ジブリ作品のような大きな劇場作品のエンディングロールになると、外から見ると競合関係にあるような制作会社の名前がずらっと並びます。逆に言うと、日本の制作会社で、社内で全部作れるところって1社もないんです。業界全体で仕事が成り立っている。ある意味〝日本アニメーション株式会社〟なんですね(笑)」(増田氏)

アニメビジネスにかかわる人たち

 アニメーターという人々の実態がわかったところで、他のプレイヤーに話を移そう。
「日本のアニメは基本的にテレビで放送されますが、テレビ局からもらう制作費は、たいてい、実際に掛かる制作費用よりも少ないのです。アニメの制作は手間が掛かりますからね。そのため、日本で最初の本格的な連続テレビアニメ『鉄腕アトム』を制作した時、手塚治虫さんはどうすればいいかと考え、商品化をセットにしたのです。つまり、鉄腕アトムのアニメをテレビで放送する。そうすると子どもたちが観る。観れば鉄腕アトムの画の入ったお菓子を買いたくなる。あるいはいろんなグッズを買いたくなる。そのロイヤリティによって制作費の足りない部分を回収する。
 それがスタンダードになってしまったのです。今でも日本のアニメビジネスでは、商品化権に基づくロイヤリティ収入が大きなウェイトを占めます。例えば、ポケモンは実はゲームが原作なんですよ。アニメで放送するまでには紆余曲折があったんですが、実際、アニメにしてからのカードやグッズの売上がすごかった」(阿久津氏)
 商品化を行う企業、つまり、玩具メーカー、ビデオグラムメーカー、レコード会社などをまとめて「流通企業」と言うことにしよう。流通企業の仕事はまず、広告代理店を通じてテレビ番組の枠を押さえることだ。土日の朝に子ども向けテレビアニメを観ると、CMはほとんどすべて、番組のキャラクター玩具のもの。流通企業にとって、テレビはキャラクターのショーウィンドウなのだ。
 流通企業の次の仕事は、おもちゃ、DVD、CDなどのキャラクター商品、関連商品を消費者に販売すること。その売上に応じて、商品化権を持つプレイヤーに対しロイヤリティが支払われる。
 従来、商品化権を持つのは広告代理店と制作会社、というケースが多かった。広告代理店が実際に掛かる制作費の一部を補填し、その代わり商品化権を制作会社とともに持って、ロイヤリティ収入を配分するというスキームになっていた。
「『サザエさん』とか特別な作品は制作費が満額出ますが、普通は出ませんから、足りない分を、広告代理店がやりくりして制作会社に渡していたんです。代理店によっては、枠を買い切りで持っているところもありますし、自分で企画を作ってプロデュースすることもある。原作を取りに行って、制作会社を手配して、テレビ局の枠を取って、『おもちゃ作りませんか』『スポンサーになりませんか』と勧誘する、要するにプロデュース機能を持ったコーディネーターです」(増田氏)
 もちろん、マンガが原作であれば、出版社(正確にはマンガ家)にもロイヤリティが支払われる。
「ガンダムなどキャラクタービジネスが繁栄するにつれて、テレビ局は『ロイヤリティ収入の増大は放送の影響力によるものなのに、自分がその配分を受けないのはおかしい』と考えるようになります。そこで、テレビ局も権利者の一角に入り、ロイヤリティの配分を受けるようになりました」(阿久津氏)
 現在は、テレビ局も含めた複数の出資者による製作委員会方式が採られることが多い(下図参照)。

1兆円産業から感じる伸びしろ

 最後に、アニメビジネスの規模を見ておこう。若干古い数字にはなるが、アニメ業界(制作会社をはじめとした製作者=出資者)の売上で1079億円、流通企業のキャラクター商品、関連商品まで含めたアニメ産業の売上は1兆6413億円(2005年度。『アニメビジネスがわかる』p113)。〝ガンプラ〟のバンダイナムコホールディングスの2006年3月期連結決算・売上高4508億円、2009年3月期連結決算・売上高4264億円、という数字を見ても、アニメ業界・アニメ産業のいずれも、ここ数年で大幅に縮小したとは考えにくい。としても、トヨタの2009年3月期連結決算・売上高20兆5295億円と比べれば、まだまだそれ一本で日本の国全体が食べていけるレベルには達していないことがわかる。ただ、〝伸びしろ〟は大きいのではないか。その理由は次回述べる。


増田弘道氏増田弘道氏
キティレコード、アニメ制作会社マッドハウス代表取締役などを経て、現在アニメ配信をメインとするケータイサイト運営会社・株式会社フロントメディア取締役、映画専門大学院大学客員教授。
増田弘道著『アニメビジネスがわかる』(NTT出版)
阿久津幸宏氏阿久津幸宏氏
アニメディア編集長、劇場用アニメ『ビーストウォーズ』などのプロデューサーを経て、現在ゲームソフト企画開発会社・株式会社ガイア取締役プロデューサー、東京工芸大学芸術学部マンガ学科「マンガ・プロデュース論」講師。

文:渡辺麻実

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