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宇宙太陽光発電がつくる、未来の世界

宇宙航空研究開発機構 研究開発本部 未踏技術研究センター 高度ミッション研究グループ 研究計画マネージャ 福室康行 氏

「ニーズがあれば、技術革新は後押しされる」

福室氏(以下F)宇宙太陽光利用システム(以下SSPS)は、原理的には可能な段階にまできています。しかし、実現となると、まだまだ「絵に描いた餅」の状況ですね。マイクロ波やレーザーを正確に送る技術、巨大な反射鏡を宇宙空間で組み立てる技術、受電したエネルギーを電力変換する技術など、実現に向けての課題は多くあります。宇宙基本計画は、今後5年間でそれらの技術課題、特にエネルギー伝送技術について地上技術で、十分に検討して3年程度を目途に宇宙実証に着手して、10年後に実用化されるかどうかの審議を下すというものです。宇宙太陽光発電実用化の判断は、 10年後の宇宙太陽光発電が、その他の自然エネルギー発電技術に競合できる技術を確立できているかどうかに加えて、世界の環境と発電をめぐる状況の変化がポイントとなるでしょう。
SSPS構想が日本で研究され始めたのは約30年前です。30年前といえば、小さな白黒の画面に、1分間数フレーム表示されるテレビ電話が発売された時代です。それから30年余りで、フルカラーの携帯電話で誰でも気軽にテレビ電話が楽しめるほどの技術革新が起こりました。人類は、必要だと考えれば、その技術の実現に向けてエネルギーをどんどん増幅し、実現します。ニーズがあれば技術革新は後押しされるんです。宇宙太陽光発電の技術の有効性が認められ、ニーズが生まれれば、20年後の2030年の商用化は夢ではありません。

大洋上の島々や砂漠などのインフラ整備が難しい地域へも、直接電力供給ができるようになる © JAXA

衛星の生産効率化とコストダウン

――宇宙空間を利用するためには、ロケットや、その打ち上げにかかるコストが膨大なものになるのではないでしょうか。

F)そうですね。衛星にかかるコストは大きな課題です。衛星の打ち上げに必要なロケットはまだまだ高価です。しかし、世界中で生産されている人工衛星の構 造部分の仕様を規格化すれば、生産効率を上げコストを下げることが可能です。現在、各国の様々な種類の人工衛星が、バラバラの仕様で生産されています。しかし、科学用、通信・放送用、気象・地球観測用といった用途に合わせてミッション機器を入れ替えれば、構造部分は共通のものにすることが、技術上は可能です。衛星の構造部分がある程度規格化され、大量生産ができるようになれば、確実にコストは下がります。また、衛星の生産の需要そのものを増やすことも1基あたりのコストダウンにつながります。日本は現在、SSPSの分で先頭を走っています。この研究で成果を出し、SSPSを電力供給の一つの有効な技術として認知させることで、私たちは世界の衛星のコストダウンに貢献できるかもしれません。

―― 宇宙太陽光発電は、場所と方法をスイッチすることで、すでにある太陽光発電技術の効率を最大化させるものですね。サステナブルな未来をつくるための新しい環境技術が、限りある資源を大量消費するケースも多い中、その方向性に共感を覚えます。福室さんは、エネルギーや技術の未来についてどのようにお考えです か。

F)地球環境に悪い、資源が枯渇するといった理由で、人類が今の生活レベルを捨てられるでしょうか。夜に電気もつかない、テレビも見られない。私たちはきっと我慢できません。現在、20円kW/h程度の電力コストが100円kW/hになったとしても、私たちは電気を使用するでしょう。人類が今の生活レベ ルを維持した上で、地球で継続的に発展していくためには、大量の電気が不可欠です。人類はこれまでの歴史の中で、何億年もの間、太陽から送られ、地中に蓄えられた石油や石炭などの資源を使ってきました。しかし、現在、その資源量に限界が見え、資源の利用に大きな変化が求められています。エネルギー源を地上のものから地球外のものに切り替えることで、人類は次世代のサステナブルな繁栄のフェーズに移行できるのではないでしょうか。

特に、今後発展途上国が豊かになるために、より多くのエネルギーが必要となります。しかし発電所や送電線といっ たインフラの建設には莫大な費用がかかる上、環境配慮型の発電所ができるとは限りません。宇宙太陽光発電を使えば、日本が持つ衛星が発電した100万キロ ワットの電力のうち10メガワット分をその国に伝送することで、その国のエネルギー供給に大きく貢献することができます。SSPSの衛星1つは原子力発電所1基分程度ですが、将来的に、大量生産した衛星を静止軌道上にベルトのように並べ、大規模発電プラントを設置するアイデアも挙がっています。鉱物資源を持たない日本がエネルギーの輸出国になることも可能になるのです。

ISSには幅11.6m、長さ35.5,m(展開時)の太陽パドルが8基搭載されている © JAXA

衛星の生産効率化とコストダウン

――エネルギーの変化で、世界に大きなパラ ダイムシフトが起こりそうですね! バーコードやレトルト食品といった宇宙開発技術からスピンオフした技術によって、これまでの私たちの生活にも大きくパラダイムシフトが起こりましたが、宇宙太陽光発電からも技術のスピンオフは考えられますか。

F)現在研究している伝送技術が進み、送電・受電の精度が高くなれば「ユビキタス電源」が実現するでしょう。アンテナとレクテナ(受電装置)を設置するこ とで、すべての家電がコードレスにすることができるようになります。また、駐車するだけで電気自動車に充電ができる駐車場なども実現します。宇宙太陽光発電だけでは現実感がなく、面白味を感じない方もいらっしゃるかもしれませんが、関連技術には未来の生活に夢を与えるようなものがたくさんあります。これからも我々の技術開発に期待していただきたいですね。


宇宙航空研究開発機構(JAXA)
設立: 2003年10月
設立根拠法: 独立行政法人 宇宙航空研究開発機構法(平成14年法律第161号)
本社所在地: 東京都調布市深大寺東町7-44-1
資本金: 5,445億200万円
URL: www.jaxa.jp

文:永野 幸(アクビ・インタラクティブ)

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