目前の金融危機が辛うじて回避され、2010年の日本経済は、わずかずつではあるがその輝きを取り戻していくだろうと期待する。しかし、それは地味で辛抱の要る道程である。1年間頑張ったものの新年は「豪勢にシャンパンで乾杯!」というわけにはいかないが、グラス一杯のワインにいろいろな思いを込めながら希望や情熱を新たにするといったところであろうか。
text: 西村訓仁 構成: 羽田祥子(編集部)

[財政赤字と政治]財政規律の問題は無関心ではいられない

 国家予算の概算要求が90兆円超に対して、税収が40兆円を切るレベルに落ち込み、赤字国債が増える可能性が高い中で、できる限り公共ファイナンスにおいて財政規律を強めねばならない。すべて国の投資、支出にはきちんとした論理や基準と戦略、そして常に効果測定が必要だ。政治家は国民の信託を受けているのでこれを徹底的に開示する義務があろう。民間部門の多くが1990年代のバブル以後、費用対効果を強く肝に銘じた。民主党の事業仕分けのようなことは常時社内で行われてきた。同様に、IMFなど国際機関への拠出、ODAなどは、私のような一民間人が言うまでもなく、納税者の拠出が資金源であるとすれば、日本に有利になる効果を考え戦略的に透明性を持って行うべきである。経済援助が日本の直接投資に役に立ち民間企業の収益や雇用に良い影響があるならば、なおのこと国民にはくどいほど説明が必要である。

 将来の中国との安全保障上のバランスを保つために日本は、米国、東南アジア諸国との関係をどう再編成するか。その政治的な観点から、経済援助、借款などに取り組むことが必要と思われ、米国債購入、ドル資産保有などについては、日本がグローバルな金融システムに組み込まれ、重要な役割を担っている故、その必要性も分かりやすい明快な言葉で国民に説明すべきだろう。同時に、今まで政治家に議題をまかせ続けた我々国民も、個人資産と国債ストックが増え続ける国の財政状況、子供たちを巻き込んだ国の将来への問題をバランスさせながら、この問題を考えていかねばならないだろう。

過度な安売りと賃金水準低下は底辺への競争につながる

 日本経済の焦点となる物価が継続的に落ちていくデフレの問題だ。高コスト体質の修正を超えて、インフレとは逆にモノの値段が下がるが、そのモノの値段が目前に低下するだけではなく、今日100円で買ったモノの価値が将来は50円の価値になるということでもある。安さばかりに気を取られ、限度を超した低価格になると、企業収益が大きく落ち込み、企業は長期的に安定した経営をできなくなり景気の後退が起きると、企業はますますコストを削減するために勤労者の賃金コストや退職金を削り、弱小企業が犠牲になる。国の経済規模が縮小して、少しでもコストを下げるために企業は無理をして、ますます国外生産に切り替え、現地の人に低賃金労働を強いることになり、産地や品質、ブランドの偽装も出てくるだろう。激しい価格の競争は、こうしたデフレ・スパイラルを招いて景気回復にとってはマイナスとなる。経済の健全化には適度なインフレーションが理想といわれる。海外で長時間低賃金労働、児童労働で低価格を維持していたら、価格転嫁ができなければやがて事業の継続にはレッド・フラッグが振られよう。途上国政府の中には自国の経済発展のために、労働基準を下げてでも外国投資を受け入れるようとする傾向もあるが、これは国同士の底辺への競争を煽ることにもつながろう。日本政府と日銀はこの問題に真剣に取り組み始めた。デフレを克服するために2兆円を市場に供給し、円高基調にある為替市場の是正にも動き出した。

[円相場]円は安定したリスク回避通貨へ

 2009年、新興国を中心に世界の株式が上昇した。ブラジル(ここ1年の上昇率:81%)ロシア(同129%)インド(同81%)中国(同上海65%、香港70%)などのBRICs諸国やトルコ(93%)など中近東の株式市場は大きな上昇を経験した。地域格差はあるものの、国際金融危機前の水準に戻った国もある。また、国際商品市況も投機や経済の先行き不透明、米ドル一極集中に対する懸念から価格が上昇した。昨年末のドバイ危機やギリシャの財政破綻で修正局面にはあるが、ニューヨーク原油先物が2009年には1年前と比較してプラス31%、金の先物価格が79%程度上昇している。そうした市場への投資資金の主要調達原資が超低金利の日本円で、外国人投資家はそれを通貨スワップでドルや新興国通貨に換えて投資する、これがキャリー・トレードである。この流れの中で、米国の経済データに一喜一憂しながら、円を逃避通貨として売ったり買ったりする。それが円の価値を上下させた。このリスク志向の資本の動きは急激な円高をもたらすだけではなく新興国の通貨投機にも使われ、グローバルな経済の不安定要素でありリスクである。この動きは続くだろうが、2010年、円はより過剰流動性のセーフ・ヘブンとして、また安定収益を志向する投資対象国通貨として買われる可能性が高い。

 ドバイの政府系企業の債務支払い延期問題、国際銀行の不良債権など国際金融市場には新たな問題が出ているが、投機的な資本フローを管理する資本規制・国際規制など金融ガヴァナンスが必要な領域である。だが、経済回復を優先させるために規制の延期が検討されている。製造業をサポートする起債市場や指数化が進むシンジケーション・ローン市場拡大も期待される。外国人を市場に呼び込むために社債利子非課税も議論されている。当面、米国をはじめ金利引き上げなどの出口戦略が先送りになれば緩やかな円高が続くと見る市場プレーヤーも多い。

元気な日本へ

 2月にバンクーバー冬季五輪、6月に南アフリカでサッカーW杯が開かれる2010年は、まさにスポーツイヤーである。東京五輪が日本経済の発展に大きく寄与したように、こういったスポーツのビッグ・イベントがもたらす経済効果は大きい。何よりも、気分を高揚させ、消費意欲をかきたてる。
 本気でベスト4を狙うという岡田ジャパンは何だかものすごい組に入ってしまったようである。予選リーグ突破はかなり厳しいかもしれないが、日本はここでは挑戦者。攻めの姿勢を貫いてほしい。
 経済面でも同じである。かつての栄光は一度リセットして、日本が本来持つ、勤勉さ、忍耐力、技術力などの強さを認識しながら、自信を取り戻すべきだろう。2010年は新たな挑戦の始まりとしたいものである。

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