コルトン・シャルルマーニュといえば、フランス・ブルゴーニュ地方の丘「コルトン」の特級畑で造られる極上の白ワインだが、この至福のワインをそのまま体現したかのようなフレンチレストランが「CORTON(コルトン)」。世界を舞台に活躍する建築家・後藤ステファニー朗子が手掛けた作品に迫る第2回。
text: 加藤紀子(編集部)

すべてがベストシートであるようにというニーポーレント氏の強いリクエストに応えるべく、後藤氏は腐心したという。その結果が、可能な限り多く設けられたコーナーシートである

食事する人を包み込むような空間

 元々この場所にはドリュー・ニーポーレント氏がオーナーの「Montrachet(モンラシェ)」という有名なレストランがあった。このトライベッカというエリアが、グルメなニューヨーカーたちの人気スポットになった先駆けともいえる店だ。そのニーポーレント氏が2008年9月、リメークのパートナーに選んだのがポール・リーブラント氏。NYタイムズで三ツ星の評価を得た、コンテンポラリー・フレンチの若手奇才シェフである。 「モンラシェ」は、レンガ造りの歴史的な建築美からも、マンハッタンの「食」のランドマークと言われていた。再出発にあたり、オーナーであるニーポーレント氏は、新しいレストランにもこの建築美を留めつつ、新たな趣を再定義したいと後藤氏に要請したのだった。  後藤氏は、限られた予算の中からも、ラグジャリアスな雰囲気を醸し出したいと考えた。そのために「食事をしている人を包み込むような空間を作りたいと思いました」。

シンプルかつ繊細なwork

 天井や壁にはゆったりとした傾斜やカーブを取り入れた。クリーム色の壁には手作業で彫られた葉や枝のレリーフが、周囲に施されたLEDによって優雅に浮かび上がる。所々で金色の葉が、白い壁の上に浮かんでいるかのように見え、まさに耽美。
 19世紀のハーブ柄が刺繍されたバンケット(長椅子)の色はコルトン・シャルルマーニュそのものを、対面するラベンダー色のスツール(肘掛けのない椅子)は年代物のボルドーを彷彿とさせる。
 後藤氏は、照明にもこだわった。特筆すべきはシャンデリア。華奢な真鍮の細い棒をブラス(黄銅)のロッドで吊るし、そのいくつかの先端には、金箔を施した卵大の手ふきガラス球を付けた。柱には、冷光色の雲母の塵をコーティングした。
 サーブされた料理は、直径5センチの小さな穴から光るハロゲンランプに照らされ、星の光が優しく差し込むような、シックでロマンティックな演出だ。  後藤氏の友人でもあるシェフ、リーブラント氏が、クラシカルなフレンチにコンテンポラリーなアプローチで挑むように、彼女も歴史と現代を見事に調和させた。
 豪華でリッチなメッセージを奥に秘めながら、彼女ならではの美意識で、シンプルかつ繊細な新しいworkをここにまた実現させたのである。

クリーム色の壁には手作業で彫られた葉や枝のレリーフ。周囲に施されたLEDによって優雅に浮かび上がる

 この表現に、彼女のアイデンティティである「日本」を感じるのは、異国の地で見る母国の面影だからこそ、なのだろうか。 「私が一番成功だと思うデザインは、どこにも力みなく自然に見えて、決して媚びることがないもの。このアプローチが、コルトンという作品の中で、日本的なものとして現れているのかもしれません」。

後藤ステファニー朗子

ラファエル・ヴィニオリやデイビッド・ロックウェルらの下で経験を積み、2004年に独立。建築だけでなく、商品やグラフィック、内装など、トータルな空間クリエイションがコンセプト。安藤忠雄、"料理の鉄人"森本正治とのコラボレーションによるMorimotoや、ChristianLiaigreとの協業によるBUDDAKANなどのプロジェクトに携わる。現在はNY、ロサンゼルス、アジア諸国のレストラン、個人住宅、コンドミニアム、ホテルなどを手掛ける。CORTONで2009年12月、建築・デザイナーの間で権威ある専門誌「INTERIOR DESIGN」によるBest of Year Awards,2009 Fine Dining部門グランプリ受賞
「CORTON」
239 West Broadway (between Walker & White Streets) New York, NY 10013
YEL: 212-219-2777
URL: www.cortonnyc.com