DCブランド全盛期を経て、日本におけるバーニーズ ニューヨーク、アルマーニ躍進の立役者。その偉業にも甘んじず、働く大人のためのセレクトショップ「エストネーション」を創り上げたファッションの達人、髙橋みどり氏。彼女が描く、これからの日本の「衣」とは?

 さて、彼女が描くこれからの日本の「衣」とは。
「バーニーズかアルマーニかユニクロか。昔はそれが大事だったけど、今はそこが淘汰される時期にあると思います。気に入ったものを着る、自分が納得して買うという行為が今はとても大事なのです。だからブランドでもないし、プライスでもない。今後は自分がどう生きていくかというところに『衣』が入ってくると思います。
 もうひとつは、ファッションも原点に戻るべきだと思う。モノづくりの大切さ、丁寧に作るということに帰るべきだと思います。セレクトショップをやってきた私がこんなこと言うのはごめんなさいと皆に言うのですが、今やセレクトショップに行かなくても個人が自分の目で選べる時代になったと思うのです。バーニーズテイストを持ったものを置き、そこに来たお客様がバーニーズという安心感の下で買うというのは、言い換えれば他人がセレクトしたものを受け入れるということ。でも今は、今日は自分がこう着たいと、自分で自分を見つけられる人が増えています。そうなった時に、本当に良いシャツってどこが作ってくれるのだろうとか、本当に素敵なコートってどこで買えばいいの? といった購買行動に変わってくるのではないでしょうか。だから今、2011年に向けて携わっているプロジェクト(※三井不動産による銀座のコマツビル跡地でのテナントビル建造)では、本物のある専門店街を作りたいと考えています」。

 原点に帰って丁寧に良いものを作っていかないと、人の気持ちはもう動かない。大量生産もいいけれど、私はひとつずつにこだわりたいんです。その思いこそ、日本人が今忘れてしまっているものだと彼女は言う。 「売れるために安いものを作るのと、一人でも多くの人に着てもらいたいから少し安くするというのは全然違います。だからこだわりの職人さんに、敷居を下げるために入門編を作りましょうよと提案しているところです。5万円のシャツは悩むけれど、1万5千円のシャツなら買ってみたくなる。ホンモノを買える人の裾野が広がるように」。
 もうメイドインジャパンにはこだわらず、世界中から良いものを集めたいと、今日も内外問わずあちこちの老舗を説得中。「これだけ世界中で売れてるんだから、日本にも直営店出せーって。私、怖がられてます(笑)」。 「先見の明」という言葉は、彼女のためにある。

発行人後記

 2001年当時、週末は人気(ひとけ)のなかった丸の内界隈から有楽町の家電量販店に向かうのが定番の散策コースであった。その経路に集蛾灯のように妖しく紫のオーラを放っていたのがエストネーション有楽町店である。洗練と魅惑、冴えと抜き、その空間とアイテムがあまりにも練られているのに軽い衝撃を受けた。東の国という「ESTNATION」は外の国に出たものが漠然と身に纏う「FAR EAST」の美意識を隅々にまで表現していたのである。昨今の経済状況で、服飾が機能美や実用性にシフトするのは世界の趨勢かもしれないが、「装いが自身とまわりを幸せにする」と髙橋氏が言うユトリやアソビが、そろそろGDPに代わる尺度が必要なこの国のヒントとなりそうだ。

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