梅田(大阪)では様々な再開発プロジェクトが進行中だ。このエリアで最も歴史あるランドマーク的存在の梅田阪急ビルも2012年春、新たに生まれ変わる。その地に根付き、その地を熟知し、沿線に住まう人々の暮らしを共に創造してきた阪急電鉄株式会社(以下、阪急)。阪急の心臓部ともいえる西日本最大のターミナル、阪急梅田駅を中心に描く新しい街づくりとは?

生まれ変わる梅田(大阪)

 同じように、梅田(大阪)駅周辺にはJR新北ビル(JR大阪三越伊勢丹などが入居)の開発やアクティ大阪の増築(大丸などが入居)など、様々な再開発プロジェクトが進んでいる(図1)。
 また、旧国鉄の梅田貨物駅用地であったJR大阪駅の北側のエリアにも新たなビル群がお目見えする。正式には「大阪駅北地区(梅田北ヤード)先行開発区域プロジェクト」と呼ばれるこの開発では、12社(※1)のコンソーシアムを中心に、産官学の連携のもと、オフィス・住宅・ホテル・商業施設などから成る街づくりを推進中であり、阪急もその一員としてプロジェクトに携わっている。この北ヤードの最大の目玉が「ナレッジキャピタル」である。「技術と感性の融合」をテーマに、アート、デザイン、クリエーションといった芸術的な力と科学や技術を融合させ、従来の都市型複合施設にはない新たな施設=街の知的事業創造拠点の確立を目指すものである。
(※1)12社のコンソーシアム:NTT都市開発、大林組、オリックス不動産、関電不動産、新日鉄都市開発、住友信託銀行、積水ハウス、竹中工務店、東京建物、日本土地建物、阪急電鉄、三菱地所

 2009年4月1日には株式会社ナレッジ・キャピタル・マネジメントを設立し、財界、大学、研究機関などの13名の有識者がアドバイザーとして名を連ねる。実務は出資者である12社が担う。 元来、西には優れた大学や研究機関、企業の技術集積と、長い歴史と文化に根ざした高い感性の両方が備わっている。ここでは、単なる研究の活動拠点や展示施設で終わるのではなく、エンジニア、アーティスト、研究者など国際色豊かなさまざまな人々が集いコラボレーションする中から新しい知的財産を創り出し、知的価値によるイノベーションを起こすことを最大の使命としている。生まれ変わる梅田(大阪)の成功の鍵はここにあると言っても過言ではない。  阪急と梅田北ヤードとの関係について、諸冨氏は次のように語る。「梅田北ヤードの成功には、梅田(大阪)の街づくりに関わる多くの企業や人々に充分な恩恵をもたらすだけの力があります。だからこそ梅田北ヤード開発だけに閉じた小さな取り組みで終わらせてはいけない。そこで生まれた大きな流れを阪急阪神グループの動きに繋げていくことは、我々が長年に渡って手がけてきた街づくりにも相乗効果を生むはずです」。

成功には媒介者が必要

 一方で諸冨氏は、不動産開発のプロフェッショナルとして、自らがリサーチ・パークを担当していた経験から「立派なハコモノに『魂』を入れる」ことの難しさを指摘する。「北大阪地域にある彩都ライフサイエンスパークを担当していた時のことです。当時、行政は、阪大、国立循環器病センター、武田・塩野義をはじめとする大手・中小の製薬企業などライフサイエンス系の研究者が集積しているこの地の強みを活かし、ここなら新しいものが絶対に生まれると強い期待を寄せました。アメリカでいう『クラスター・モデル』(※2)です。
(※2)ハーバード大学のマイケル=ポーター教授によって提唱された概念。これまでの企業誘致中心型の地域開発ではなく、内発型の性格の色濃い地域産業発展戦略。「クラスター」は本来、花やブドウなどの房のことだが、ここではあるテーマを中心にする大学・研究機関の集合体や、ある技術を中心とする企業の集合体のことを指す

 これは北大阪地域でイノベーション・エコシステム(※3)の構築をめざすものですが、実際は想像以上に時間と労力がかかることがわかって来ました。 成功の可否は、研究の価値を換金力のある価値に置き換えられる人がどれだけいるかにあります。媒介者(インタープリター)の質と量の確保が最も重要なのです」。
 インタープリターやプロデューサーをはじめ、アーティストやクリエーターからインキュベーター(起業支援者)に至るまで人材をどれだけたくさん引っ張ってこられるか。ナレッジ・キャピタルには非常に強い「引力」が必要だ。彼らは面白い場所、自分のパフォーマンスを一番発揮できる場所に動く。90年代のシリコンバレーのように。 日本に前例のない、全く新しい「創造の宮」が根付くには、人を惹き付けるだけのサクセスストーリーが必要だ。

(※3)イノベーション・エコシステム:企業・政府・教育機関といった経済社会の多くの要素が入り組んだイノベーションを促進する生態系